川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

東側、ダークネス

Vシネマ、『イーストサイド・ワルツ 悦楽の園』(1998・監督 武田一成)をDVDで。イーストサイドっていうのは、つまり隅田川の東側らしい。僕は隅田川の西側のへり、川沿いで育ったからしょっちゅう東側に橋を渡っていた。冒頭のタイトルバックに映る吾妻橋や駒形橋、厩橋も馴染み深い風景だ。右下の水上バス乗り場がまだ旧建物である。

f:id:guangtailang:20190417082752p:plain山の手育ちの老齢の作家が隅田川の東側で講演を頼まれ、なんとなく惹かれてそれを受ける。依頼者の女が登場すると、彼女は作家の昔の恋人の面影を持っていた。作家は石橋蓮司、女はVシネクィーンの異名を取る大竹一重。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

f:id:guangtailang:20190417082840p:plain講演の数日後、作家に女から電話があり、下町を案内するという。それで作家はひょいひょい出かけていく。ばあさん役の南美江が石橋を諫めたりしていい味を出している。それにしても90年代という近過去を、ある意味70年代以上に古めかしく感じてしまう不思議。現在と連続する過去の時間の映像としてみて、20年ほど前なだけでこれが無い、あれが違うというちょっとした「欠如」の感覚が生じ、それが陳腐さにつながる。一方、ロマンポルノに代表される70年代の映像は、40年以上前なのだからこれが無い、あれが違うのは当然であり、却ってこれはこれで新鮮だし、あれはあれでいいじゃないかという「充足」のようなものを感じる。言葉遣いなんかもそうだ。無論これは僕の世代的なことも関係しているだろう。薄くなった頭髪を撫で付ける石橋。

f:id:guangtailang:20190417082936p:plainこのVシネのイーストサイドは主に江東区。深川江戸資料館、清澄庭園などが出てくる。大竹は石橋の家政婦として家に入り込み、彼が昏倒したりするのを看病するうち、ふたりの仲は急速に接近する。箱根の夜に互いの気持ちをぶつけ合い、躰を重ね合い、そして、ふたりは婚姻する。が、石橋には彼女に対して一抹の疑念があり、それがやがて膨らんでいく。南は婚姻に関して、若い女の資産狙いだと石橋を諭したりして、そりゃ外形的にはそうみえるわなと思う。

f:id:guangtailang:20190417083010p:plainf:id:guangtailang:20190417083043p:plainf:id:guangtailang:20190417083107p:plain石橋の疑念は的中し、大竹は昔の石橋の恋人、宮下順子の陰謀によって彼に近づいたことが大竹本人の口から明かされる。喫茶店で石橋と宮下は遭遇し、店を出た宮下を尾行したりする。宮下(の若い時)と大竹が似ていることから謀は発案されたのだ。彼女は洋館風の建物に消える。この「館」が宮下と大竹をつないだもので、川端康成眠れる美女』ばりのプレイができる。眼鏡を拭い、ブランデー入りコーヒーを注文する宮下。

f:id:guangtailang:20190417200214p:plainf:id:guangtailang:20190417083137p:plain石橋は再び倒れる。キッチンで食材を散らかすほど激しくまぐわったりするのだが、この辺り、老齢のリアリティがある。陰謀により石橋に近づいた大竹であったが、今や彼の胎児を宿し、彼を愛していた。この後の展開はまあ観て頂ければいいと思うが、やけにセンチメンタルで、大竹も結局家庭を望んだ平凡な女だったのだ、というような女が男をおびやかすことのない方向に収斂され、結末の悲劇性を「風にようにあらわれ去っていった加奈は、私の気が付かないことを教えてくれた」などと石橋のナレーションで結び、じいさんのファンタジーのようで鼻白む。もっと女が男の鼻面をつかんで引き回すようなリアリズムが欲しい。武田一成さんも年齢をとったということか。

f:id:guangtailang:20190417083220p:plainにっかつロマンポルノ、『団鬼六 美女縄化粧』(1983・監督 藤井克彦)をFANZA動画で。バックに流れるジャズと映像のダークな雰囲気もたっぷり、物語も69分の中でビシッと決まり、これは秀作なんじゃないかしら。主演の高倉美貴が美麗だし、若き大杉漣も良い。団鬼六はあまり知らないので高倉も初めて観たが、金沢の老舗料亭の娘でほんとうのお嬢様育ちのようだ。そして、右の父親役宇南山宏は1984年に48歳で高田馬場にて鉄道自殺を遂げている。親子でテニスに汗をかいたあと、寛ぐクラブハウスでふたりのあいだに赤い文字が浮かぶ。

f:id:guangtailang:20190417083246p:plainf:id:guangtailang:20190417083548p:plain去年2月に逝去した大杉。この映画では30代前半で縄師を演じる。口髭、シャープな面構え。

f:id:guangtailang:20190417083624p:plainf:id:guangtailang:20190417083704p:plainラスト。この高倉があらわれた時は、あんぐりと見惚れた。よくぞこのような人がSMを題材にしたロマンポルノに出たものだと思うが、そのあたりの経緯はWikipediaにも書いてある。

f:id:guangtailang:20190417083729p:plain