川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

闇に抱かれて

日活ロマンポルノ、『闇に抱かれて』(1982・監督 武田一成)をFANZA動画で。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

冒頭、風祭ゆきが無邪気にゲームセンターで遊んでいる。瓦割りゲームやレーシングゲーム、パンチングゲーム。華奢な拳を繰り出した瞬間、そこにタイトルバックが重なる。軽快な感じがなんとも良い。

f:id:guangtailang:20190312230835p:plainなぜこんなことを風祭がしているかというと、同居している夏麗子が不倫相手の鶴岡修と部屋で交接しているあいだ、気を遣って外で時間を潰しているのだ。個人的に懐かしいと思ってしまったのが、風祭と夏の住むアパートが道路から何段か高くなった空き地に面しており、その原っぱでは子供らが野球をしている。私の小学生時代(つまり1982年だが)にはたしかにこういう趣きの場所が東京に点在していた。ボールが飛び過ぎると当然部屋の窓ガラスを割る。この風景はのちにバブルで一掃されるだろう。

f:id:guangtailang:20190312230910p:plain風祭と夏は同じ会社の受付と電話交換手をしているが、そこに鶴岡の妻が乗り込んできて夏と対峙し、顔面を引っ叩き合う。妻はさっき鶴岡の子供を堕ろしてきたばかりだと捨て台詞を残し去っていく。

f:id:guangtailang:20190312231002p:plainここから物語は急転、夏はバーで知り合った自殺願望を言い立てる男に誘われるがまま三宅島に行く。そこで一緒に自殺するというのだ。夏から別れの電話を受けた風祭も鶴岡とともに急ぎフェリーで三宅島へ向かう。鶴岡は妻との離婚を決意している。自殺願望の男も鶴岡も感情移入しにくいクズと云えば云えるのだが、他方でしばらくみていると男の怯懦を体現しているようにも思え、なんとも云えない苦味が湧いてくる。

f:id:guangtailang:20190312231041p:plain船内で寝に行こうと席を立つ鶴岡に眠れるのと詰問する風祭。まあ試してみるさと投げやりに答える鶴岡。風祭はかなり常識的である。

f:id:guangtailang:20190312231150p:plain宿に入り部屋のカーテンを開けるとそこには払暁の空と海があり、風祭はしばし見惚れる。

f:id:guangtailang:20190312231221p:plainガラス窓越しに陶然と景色を眺める風祭。彼女の顔にも見惚れる。

f:id:guangtailang:20190312231259p:plainふたりで夏を捜索するが、杳として行方は知れず。灯台のある場所に佇む。もしかしたら、ここにはいないのかも知れない。鶴岡の情動が風祭へと向かい始め、このあと抵抗する風祭の肉体を激しく貪ることになる。付言しておくと、ロマンポルノであるからしてここまでも10分に1回程度、夏と鶴岡や男との絡みが出てきている。

f:id:guangtailang:20190312231330p:plainこの画はなかなか凄い。離島でロケしたメリットがこのあとどんどん利いてくる。

f:id:guangtailang:20190312231351p:plainその頃、夏と男は熔岩の丘陵で死ぬ準備をしつつ、しりとり歌合戦などという間の抜けたことをやっていた。夏が人間なんてラララ ラララララと唱い、これは素晴らしい。男はぺてん師臭を漂わせている。

f:id:guangtailang:20190312231427p:plain彼らの心象風景のような寄る辺ない熔岩大地。夏は死に切れず彷徨い、風祭は惰性のような感情で鶴岡を受け入れ、鶴岡はなんのけじめもなくただ淋しくて人恋しいだけ。しかし高潔ばかりが人間ではないのだし、これも人間だろう。

f:id:guangtailang:20190312231456p:plain帰りの船内で夏に鶴岡をめぐるライヴァル宣言をする風祭。これは心にぽっかり穴の空いた夏を鼓舞する意味か。タバコの烟をボワッ、ボワッと吐いて、それがフェリーの航跡に繋がり、完。