映画『731』の公開は延期されたらしい。中国当局の深謀遠慮があったぽい。
このたび宿泊した龍門貴賓楼酒店。ガイドのおばさんは満洲時代の歴史に明るい人で、このホテルが旧ヤマトホテルということにも勿論言及した。入口に回転扉があり、低層でエレベーターはない。ステンドグラスを正面に階段を上ると、壁の左右にトルストイとプーシキンの肖像画が掛かっている。そして2階に上がってすぐのところにこの大きな金色の地球儀が置かれている。Hさんはじめ、多くの中国人はひたすらに新しく近代的な、鉄とガラスのホテルを褒めそやし、クラシックホテルに対する理解が薄いが、それでも部屋のベッドは寝心地がよく、シーツが清潔なことには感心していた。天井もかなり高い。部屋が常にビンビンに冷えており、22度くらいの設定のような気がして僕は寒かった。
太陽島というのは松花江の中にある島で、冬にはかの有名な氷祭りの行われる会場である。ここはハルビンビール博物館。さきほど観覧した七三一館の混雑ぶりとは大違い、僕たち以外に人気はない。
かつてのハルビン駅。プラットフォームには売り子がおり、往年の広告なども貼ってあるが、静寂に包まれ、時が止まったようなので、まるでポール・デルヴォーの絵画の中に迷い込んだみたいだ。車輛内の食堂ではロシア人の男女が座って談笑していることだろう。
順路の最後に桃色の部屋でビールの提供がある。なぜ桃色なのか一切の説明はなく、照り上がった眼鏡の気の良さそうなおじさんが閑職のように恬淡と佇んでいる。翌日、中央大街に行くのにタクシーに乗ったが、運転手がこの博物館を評して「没意思(何もない)」とぶった切ったのだ。
この博物館はもしかすると近い将来閉められてしまうかもしれない。なぜこんなにも人気がないのか。僕は個人的に推したいけれどもね。
ハルビン駅に併設されて安重根義士記念館がある。義士というのは当然に韓国からの見方で、日本では初代内閣総理大臣を暗殺したテロリストという扱いになる。歴史はプリズムのように多面的に光を放つ、と言えばあまりに綺麗過ぎる表現で、この館がこうして今あるかたちになるまでにも紆余曲折あったと聞く。
ハルビンに来る前、キム・フンの『ハルビン』(蓮池薫訳)を読み、ウ・ミンホの『ハルビン』を観た。
館内には僕たちの他に丸眼鏡の大柄な韓国人青年がいて、熱心にパネルを読んでいた。ガイドが僕に向けて日本語を話すと、ちらっ、ちらっとこちらを見ていたような気がする。館自体は七三一とは比ぶるべくもないこじんまりとしたものだが、
伊藤博文が銃撃されたプラットフォームが覗けるつくりになっている。
そして、この床の赤い四角と白い三角はそれぞれ安重根が狙撃した地点と伊藤博文が狙撃された地点をあらわしている。実に至近距離といっていい。3発が命中し、30分後に絶命したと伝えられる。映画『ハルビン』ではその瞬間を真上から俯瞰で撮り、ロシア語で「朝鮮、万歳!!(カレア、ウラー!!)」という声が響く中、暗転していた。
松花江の北側(ジャンベイ 江北)にある東北虎林園へ。10数年前に来た時は冬だった。側面のガラスに餌やり用の穴の開いた立派なバスで回る。前回のバスはもっとレトロだった。
午前中にたらふく食べたのか、あんまり生肉に反応を示さず、バスはしばらく停まって虎たちがのそのそと寄って来るのを待った。
肉を食らうより、暑いので水辺に体躯を沈めている方がいいみたいだが、それでもやって来た。
去哈尔滨的游客没有不去中央大街的(ハルビンを訪れる観光客で中央大街に行かない人はいない)。ということで、马迭尔冰棍儿(モデルンアイスキャンディ)。
この日は袋入りのやつをかじり、翌日また来て袋入りじゃないおすすめのやつをかじった。
暮れ泥むハルビン駅。