川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

いつかあのハルピンを思い出してきっと泣いてしまう

f:id:guangtailang:20210121185230j:imageさきおととい。ハルピンビールを扱っている日本の会社を見つけ、早速注文する。懐かしい、と言っていいのかな。このブログを〈ハルピン、ハルピン、ハルピン!!〉と騒いで始めた僕は、年に三度かの地に飛んだこともあった。あの頃は尖閣諸島国有化の余波で成田からの直行便がなくなり、新潟から飛んだり、北京経由で飛んでハルピンに着いたのが夜の10時を回っているということもあった。まあ、それでも行く理由があったのだ。空港からガイドとその朋友の操るクルマで仄暗い道路を滑り(凍結しているからほんとうに滑っている)、庶民的な食堂へ寄り道すると、ダウンジャケットを着たまま夜宵(イエシャオ 夜食)に羊肉串をかじった。横のテーブルで中年女性ふたり組がおしゃべりに興じており、足元にハルピンビールの空き瓶が転がっていた。ずいぶん豪快だこと、と思った。その後、凄まじい冷気の中で妙に鮮やかに発光している紅やピンクのネオンサインを車窓に眺めながら、ホテルへ向かった。それらも今や懐かしい。

f:id:guangtailang:20210121185237j:image小瓶24本入り。これが自宅に届くまでに一個エピソードがある。それというのが宅配業者が瓶を割ってしまったのだ。昨日のことだが、僕の携帯に見知らぬ番号の着信があり、かけ直すと川崎の配送センターだった。女性が申し訳なさそうに、配送過程でハルビンビールを破損させてしまい、本日予定のお届けができなくなりまして、ビール会社に新品を用意してもらうので明日以降でご都合の良い日時を教えていただければ、と言う。それなら明日(今日のこと)の夕方で、と爽やかに答えた。いちにち延びたとて腹など少しも立たない。彼女は〈ハルビンビール〉を発話したし、謝罪は気持ちの良いものだった。つまり、芯から謝っている感じが伝わってきた。慇懃無礼じゃなく。

f:id:guangtailang:20210121204719j:imageビールの詰められた段ボールは現地のやつで、〈向上↑↑〉や〈易碎物品〉の表示が小さくあるが、見落としたのかも知れない。今日届いた時には段ボールの底に発泡スチロールを履かされビニルで梱包されており、なかなか厳重だった。ちなみに平房区は731部隊の遺構があるところだよな。ドライバーがここの隣りの小学校出身で、日本語の流暢なガイドが「彼は731を卒業しました」と際どい冗談を言っていたっけ。

f:id:guangtailang:20210121185330j:image注文した瓶ビール以外に色々なノベルティがついてきた。小麦王の缶ビール、コップ、栓抜き、ボールペン。特にこの栓抜きは嬉しいな。久々に飲んだけど、ハルピンビールはうまい。ライトでフルーティゆうんかな、毎日飲んでも飽きのこない味道がある。日本でふつうに手に入るのは青島ビールだけど、大陸ではハルピンビールばかり目にした。上海でもハルピンビールを飲んでいたな。あと、大連で飲んだ燕京ビールがうまかった。が、ラベルが鈍重だったような気がする。その点、ハルピンビールは洗練されているか。誰にも、ある心の苦みをもって回想する土地があるとすれば、僕の場合、やはりハルピンなんだと思う。

f:id:guangtailang:20210121194921j:image吉村昭先生の記録文学の一端。伊能忠敬間宮林蔵の出会いは記録(文字)に残っていないそうだから、吉村先生もこうであったろうという蓋然性の高い想像をしたに過ぎない。小学六年生なら、熊をかついで雪原をゆく伊能に間宮が「やあ」と声をかけるところで心躍らせてもいいが、おっさんになったら慌てず騒がず、ひっそりと記録文学の滋味を味わう時間があっていい。

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