川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ふたつの茅

寒い時期になった。日本海側では降雪がすごい。太平洋側と天候がくっきり分かれる季節の到来。夏や海のイメージが強い藤田敏八の『危険な関係』(1978)をFANZA動画で。二度目。読んだことはないが、ピエール・アンブロワズ・フランソワ・ショデルロ・ド・ラクロが1782年に書いた小説が原作。それを氷雪の茅野(蓼科)と陽光の茅ヶ崎という日本の風土を舞台に換骨奪胎した。ゲーム的な男女の応酬が描かれ、駒のように動く人物たちをどこか高みから見ているような感覚になる。よって、誰かに深く感情移入するような映画じゃない。宇津宮雅代がガサついた低い声で悪女を演じており、堂に入っている。リーゼントがトレードマークの三浦洋一はとにかく動き回るが、イリーガルを物ともしないでたらめさである。住居不法侵入、盗撮、児童ポルノ禁止法違反(当時あったか)等。和装の片桐夕子は貞淑な妻役。だいたいこのさんにんが中心。

これはロマンポルノの括りなのかしら。濡れ場は10分に一度も出てこず、後半にまとまってある程度。藤田がセックス場面の描写にさほど興味ないのがわかる。AVでは特にそうだしロマンポルノでもそうだが、即物的な濡れ場ばかり映されても退屈するということがままある。それで、スキップ(早送り)してしまう。濡れ場も無論大事だが、そこに至るストーリー(プロセス)にこそ価値が存する。今回観てみて、ホモ・ルーデンスたる藤田の撮った中で五指には入るんじゃないかと思った。音楽の使い方は相変わらずいい。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

f:id:guangtailang:20201216132917p:plainこのタイトルバック、昭和の洒落てるやつです。

f:id:guangtailang:20201216132949p:plain三浦洋一はすでに鬼籍に入っているが、味のある俳優だよなあ。林修先生と同じ東海高校卒業、早稲田大政経中退。一見そうは見えないのだが、学業的に優秀な人なのだった。雪景色というのが藤田的に珍しい。

f:id:guangtailang:20201216133020p:plain宇津宮雅代が大損ぶっこいた時、書類をさっと見たあとの顔。しょうがないわ、今度損したら家屋敷を売ることになるわね。さ、一緒に飲みましょうみたいに高橋明に言う。1978年、三浦と結婚し、のち離婚している。

f:id:guangtailang:20201216133052p:plain茅ヶ崎海岸。よにんの思惑が気だるげに交錯する。といっても、宇津宮のそれが図抜けて強烈なのだ。三浦は行動の人。ちなみに、彼の茅野─茅ヶ崎の移動のさまは描かれない。

f:id:guangtailang:20201216133129p:plain三浦の新宿の根城。ふたりは言葉でこすり合い、ロックンロールでダンスをし、交接するが、その後の描写がおもしろい。交接の最中、窓外でクルマの往来の音が聞えている。ぱっと宇津宮が目を覚ますと三浦の姿がなく、音のする方を向けば彼はシャワーを浴びている。彼女は再び目をつむる。次に起きた時は窓外のベランダ(部屋が半地下になっているのか、ベランダの方が高い位置にある)で犬が肉にかぶりつき、そのうち犬同士の喧嘩がぎゃんぎゃん始まる。振り向くと若いツバメがいる。実のところ、こんな男は歯牙にもかけていない。

f:id:guangtailang:20201216133153p:plain茅野(蓼科)。なんやかやあって、その強引さで意中の人片桐を組み敷いた三浦。すると、あにはからんや片桐も燃え上がる。彼女の別荘での交接では、最中にベルリン赴任中の夫の写真がインサートされる。また、永井荷風の文章の朗読もインサートされる。

f:id:guangtailang:20201216133228p:plainサンバレー蓼科。今はもうない。主要人物がホテルのロビーに集結し、修羅場が始まる。しかし、どこか喜劇的というか滑稽さが漂う。

f:id:guangtailang:20201216133257p:plain滑稽さの中でドスの利いた顔を向ける三浦。わけのわからぬ人間関係に巻き込まれ絶望した片桐が悲鳴を上げて走り去る。宇津宮はなおも悠然と嘯くが、その顔に三浦は張り手をお見舞いする。

f:id:guangtailang:20201216133323p:plainその後、なんやかやあって駒が盤の外に飛び出すようにクルマが2台凍った谷底に落下し、三浦と片桐ともうひとりが死ぬ。それが新聞記事に載る。一方、宇津宮がホテルの部屋にひとりでいると、心を踏みにじられた女が入ってきて、サイフォンの煮え立つコーヒーを宇津宮に向かってぶちまける。

諏訪の病院。顔の片側を隠した宇津宮が歩いてくる。記者らが彼女を取り囲む。すると、隠していた側の顔を露わにする。ひどい火傷。彼らを死に追いやったのはあたし、理由はジェラシー。それだけ言い残すと、タクシーに乗り去っていく。