オニヤンマを模した虫除けグッズを自宅入口脇に並べてある鉢植えの上に乗せておいた。ある日、2階自室で横臥している僕の耳にHさんの鋭い声が届いた。降りていくと、ドアーの陰に隠れるようにあそこを見ろと指差す。何かと思えばそれが例のオニヤンマだ。とても大きいよ。いやこれはねと指でつまんで左右に振り、本物じゃないとアッピールする。
群馬県渋川市赤城自然園の入口にも同じオニヤンマのグッズを売っていた。園内を散策している時に白い帽子をかぶった眼鏡の女性とすれ違い、その人の帽子の横側にオニヤンマが装着されていた。ジェット機のようにかっこいい。なるほど、こういう感じかと思った。
茨城県笠間市。筑波山の北側。周囲も山がちで、湿潤なこの日は山上が霧でけぶっている。ブルーベリーを何十粒とすでに腹に入れていた僕らは、昼飯は軽食でいいやとここまで来た。相互通行できない赤い鉄橋を渡り、この道の先に果たして店があるのかという緑の迫る狭い道をくねくねと上っていく。すると左側に見えてきた。駐車スペースもなかなかに狭い。こういう立地の店は通りがかりに寄ってみたというわけにはいかないのだから、インスタグラムなどでの情報発信がきわめて重要だ。
食パンとフォカッチャとカフェオレを注文し、テラス席に座る。目の前は山林だが、不思議に虫が飛んでこない。カランコロンと頻繁に入口のドアベルが鳴り、客の入りは上々のようだ。
ブルーベリー狩りはこの世界の一隅で細々と存在している当ブログにも毎年載っている。僕らのあいだで年中行事と化しているからだ。梅雨空とにらめっこし、これならば行けると朝出発する。今年もそうだったが、Hさんの友人含め6人で予約していたものの、雨みたいだからやめますと数日前に連絡がきた。ブルーベリー狩りはいつも梅雨時に始まるのだから、雨を煩わしがっていては始まらない。
むしろ、これぐらいの薄曇りがいい。陽射しが照りつけるようだとブルーベリーを摘むのに集中している僕らはじりじりと灼かれ、眩暈を感じればすでにやばい。
寡黙な農園主が今年は100グラムあたりの値段が上がりましたと告げ、いろんなものが値上がりする昨今ですものねと応じる。いつもの習慣でHさんを園に残し、僕は先にログハウスに戻って清算、ブルーベリーアイスクリームを頬張る。この時の紫の固い表面にプラスティックの匙を差し込みながら、全身にじっとりかいている汗に今更ながら気がつく感覚は、ループ(反復)している妙に深い感覚がある。
「那个虫子辣辣的!」とHさんが鋭く声を上げたわけなんだが、そのムシは触ると刺激があるとか、そういう意味で言ったのかな。くすんだオレンジで毛がふさふさして葉っぱよりも長いが、僕にはちょっとどういうケムシかわからない。以前は防鳥ネットに多数のカブトムシが絡まり、あるものは角から突き刺さって身動きできず、あるものは脚が多方向に折れ曲がり、あるものはすでに体の半分がなかったりして絶命していたが、最近は見ないな。

昨日6月18日。夜10時を回った頃だったか、2階自室で中国語の勉強をしていたところ、ふんぞり返った拍子に鴨居の上10センチあたりで触角を動かすゴキブリが視界に入った。きゃつを凍らして絶命させるスプレーは階下に置いてあるのですぐ取り入ったのだが、持ってみると空だった。その隣りにふつうの殺虫剤があったのでそれを掴んで戻り、移動していないきゃつに強烈にみまった。一瞬飛んで本棚の後方に隠れようとしたが、その空間にも再び噴射すると地面に落ちて数秒暴れた。さらに吹きかけた。トイレペッパーでくるんで流した。
それから5分もしないうちに3階でベッドに仰臥しているはずのHさんの鋭い声が耳朶を打った。「蟑螂(ジャンラン)!!」。ゴキブリって意味だ。スプレーとペーパーを手に上がると、ドアの裏を指差す。覗くとさっきよりやや小ぶりのきゃつが静止していた。噴射し、絶命を確認。くるんで流す。
しかしゴキブリはあまねく人類に忌み嫌われ、ひとたび姿をあらわせば反射的に攻撃態勢に入った人間により滅せられる。2億年前少なくとも白亜紀には地球上に存在した彼らは人家の内部に闖入したという理由により、