川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

下り坂のカーブを曲がり、

浙江省出身の妻Hさんの息子家族が訪日し、その怒涛の日々が過ぎ去って、すると今度はHさんの横に割れた膝蓋骨を留めている金属を除去する話が出てきた。思案のあげく、その手術もやると彼女は決心した。

執刀医の話を聞く際、僕が通訳したが、ところどころ詰まり、途中から中国人の看護師がやって来て、言葉の問題は解消された。麻酔医の部屋まで並んで移動しながら、「あなたは中国のどちらの出身?」と訊くと山東省だと答えた。山東省はたしか女性の平均身長が中国全省で最も高かったはずだが、彼女は165くらいで、Hさんより少し低かった。

f:id:guangtailang:20241104220611j:image元の計画の大幅な変更を余儀なくされたHさんの息子家族の訪日だが、ここ上野動物園も当初のコースにはなかった。インジァーリン(Hさんの孫)のリクエスト。

f:id:guangtailang:20241104220607j:image曇天ではあったが、鹿島灘海浜公園は楽しんでくれた。下り坂のカーブを曲がり、太平洋が広がり始めたところでディンディン(Hさんの息子)が「ここは核排水の問題はないのか?」と悪気なく言うから、「ないだろうね」と答える。彼は善良な人民だから、特にこちらが気分を悪くすることもない。ディンディンが撮影。

f:id:guangtailang:20241104221600j:imageチャンリュル。この監督の名は本来カタカナで表しようがないのだ。张律(zhānglǜ)と書く。吉林省延吉市出身。朝鮮族

上は『福岡』(2020)、下は『群山』(2018)。これらの映画を知れて、一大収穫だった。

f:id:guangtailang:20241104221556j:image思わず『キムチを売る女』(2005)をDVDで買ってしまったが、素晴らしく殺風景で、そんな中で人が淡々と強く生きている映画だった。张律の映画は劇伴も鳴らないが、劇中で歌は歌われる。構図はばしっといちいち決まっている。虚飾を排して、却って豊饒な味を残す。

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f:id:guangtailang:20241104221552j:imagef:id:guangtailang:20241124143902j:image自分の現在のレベルに見合っているのか定かではないが、最近、中国語小説(簡体字)を原書で読もうとしている。とりあえず、薦められた三毛《撒哈拉的故事》を読み進め、翻訳で読んだ路遥《人生》の原書を取り寄せている。後者は「読みやすくて有名な作家だと誰がいますか?」という僕の問いに、河南省出身のLさんの口にのぼった。そんなわけで神保町の中国書籍専門書店にお世話になっているが、上野の亜東書店が比較的廉価な気がする。実店舗もあるにはあるが、営業時間が短いのでもっぱらサイトで調べて購入している。

そういえばディンディンに余华の新刊《山谷微风》を買ってきてもらって、これも原書だ。冒頭の散文、贾樟柯(ジャ・ジャンクー)が余华(ユィホァ)を招いて撮ったドキュメンタリー《一直游到海水变蓝》(2021)の話だけ読んだ。

余华の出身は浙江省嘉兴の海盐で、杭州湾に面している。この海は大河の土砂が大量に運ばれて、ミルクコーヒーみたいな色だ。余华は幼い頃、教科書や何かで見る海は青色なのに、なぜ自分がじかに目にする海はそうじゃないのかと考えた。そこで彼は泳ぎに熟達したのち、海の色が青に変わるまでずっと泳いでやろうと決心する。しかしそのことにより若い余华はひどく怖い思いをするはめになる。

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