川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

言葉足らず

f:id:guangtailang:20220710164011p:image日曜日。午前9時半、中国人のおばさん4人をクルマに乗せてブルーベリー狩りに出発。ひとりは浙江省、ひとりは福建省、ひとりは遼寧省、ひとりは黒竜江省と南北2人ずつに分かれている。僕が中国語を学び始めた頃に知り合った例の友人Jが、当時日本在住の中国人を指して、「北と南が多いねん」と言ったのは現在でも妥当すると思う。北とはすなわち東北三省、南は福建省である。浙江省福建省の北、上海の南だ。上の画像は浙江省すなわちHさんの予定ではブルーベリー狩りのあとにフラワーパークに行くはずが、福建省の女性が急に、実はこの近くに5年会っていない朋友がいる、今連絡をとったのだが、せっかくだからこれからそこで昼食を食べるというのはどうですか?と言い出し、なぜかあっという間に話が決まって目的地変更、黒竜江省の朋友のその家(夫は日本人)である。

f:id:guangtailang:20220710164023j:image時間は少し巻き戻り、ブルーベリー狩り。常磐道をすいすい走るはいいが、夏らしい雲が切れて太陽が照り始め、ファームに着く頃には32度あったと思う。大地を風が吹き抜けるから気持ちいいのだが、じりじりと肌は焼かれている。園主にたくさん摘むから滞在時間を倍に延長できないかと4人の中国人おばさんがたのみこむが、実直な彼は端境期で適したブルーベリーの数が多くないのと公平性を保つのとを主な理由にやんわりと断る。こういう光景は僕は何度も見てきた。結局、暑過ぎて1時間などいられなかったのだが。

f:id:guangtailang:20220710164026j:image守谷SAでトイレ休憩した時に隣りを歩く福建省の女性に、ドライブでこっちの方来たりしますかと訊くと(夫は日本人)、自分は家とスナック(職場)の往復でめったにないとのことだった。それを聞いて、車中で子どものようにはしゃぐおばさん4人に、今日は徹底的につき合おうと思った。とはいえ、僕はハンドルを握りながら、土曜日の午後に見たMの泣きはらした顔がどうしても脳裡を去らなかった。彼女が泣いたのを初めて見た。変なことを言うが、Mの泣き顔を想像したことがあったな、と彼女の腫れた目を見ながら思い出していた。こういうことでいえば、経験上、会ったらこれだけは言ってやろうと思い、ところが会って相手の顔を見た瞬間にその気合いが雲散霧消してしまうことはあった。が、今回は逆のことになった。彼女から送られてきたラインの長文に、まさかMがこんなやりかたはしないだろうと否定したかったが、そうともとれる内容を僕がひきずり、本人を前にしてどうしても確認したく、それが思っていた以上の強い調子で口をついて出てしまった。Mには疑問と反発という言い方をしたが、そこには確実に怒りがあった。

f:id:guangtailang:20220710164019j:imageのちにMは僕の詰問自体はそれほど気にならなかったと言った。ラインだったからね、〈言葉足らず〉という言葉をお互い口にした。ただ、彼女の躰で徐々に進行する難病、再来週に控えた手術の話を聞くにつけ、いま一度彼女の状況を想像し、「不安だったんだね」と呟くと、「だめ、泣きそう」と言うが早いか、Mの目に涙が溢れ、泣き通しで焼肉のランチを食うことになった。自分で思っていた以上にこちらも動揺したし、心臓をぎゅうっとしぼられるような感覚を覚え、これが想像とリアルの差なんだよ、わかるかおまえ、となぜだか己を叱っていた。

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