川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ロングダッフルコート

f:id:guangtailang:20220119232710j:image19日午前。新幹線でパッと目を覚ましたら車窓が雪景色だった。米原のあたりかしら。また少しまどろみ、次に起きたら京都を過ぎていたので、あとは新神戸まで携帯を弄っていた。神戸は快晴。

午前5時半起床。外はまだ暗い。夜中に2回目が覚めて3時間も寝ていないが、祖母の葬儀で行くので気がせいて落ち着かない。最寄り駅までいつにない早足で向かう。

午前10時過ぎ新神戸着。両親と弟は前乗りしており、兵庫区の斎場で11時半に落ち合う約束。シンガンシェン車中で、祖母亡きあと、神戸に行くことはあるのだろうかという考えが繰り返し浮かぶ。あったとして、今までの大きな目的が消えたのだから、観光みたいになる。

f:id:guangtailang:20220119232722j:image時間が少しあったので、新神戸のカフェに喪服をロングダッフルコートで隠した姿で入店し、蒜山ジャージーカフェラテを飲む。服務員の女性が甘い声で神戸弁のイントネーションを操る。

午前11時15分、斎場着。祖母を見送る。読経が終わり、生前の愛用品(薄い紫色の社交ダンス用ドレス、社交ダンス用シューズをメインに)を棺に入れ、祭壇の花を敷き詰める。手を握ってあげてくれと言われ、祖母の手を握るとドライアイスか何かでえらく冷たかった。出棺の時に隣りの母親が泣き、わたしも嗚咽が漏れた。父親は泣かない。彼が泣いているのを見たことがない。

両親が霊柩車に乗り、わたしと弟がタクシーでそのあとを追いかける。わたしは鼻をすすりながら山の方の火葬場へ向かう景色をずっと眺めていた。だから弟の顔はよく見ていないが、マスクの下で歯を食いしばったような表情をしていたと思う。神戸だから山に上れば街の向こうに海が見える。魅力的な街だから観光でも来るだろう。

祖母が焼かれているあいだ、用意された別室で飯を食べる。祖母の遺影の前に好きだったビールを置く。窓を見ると雪がちらついていた。四人で祖母の思い出話をしていると、時間の経つのは早い。

火葬炉から出された祖母の骨を見てまず思ったことは、これはただの物体だということだ。ここに祖母はいない。ドライアイスで冷やされていようがさっき祖母はいたが、この物体をわたしの知っている祖母と同一視はできない。母親も泣いていなかった。

午後5時前、骨壺を持ってタクシーで寺へ向かう。後部座席に三人。分厚いロングダッフルコートをできるだけ窄めて乗り込む。70年配のタクシードライバーは一言も喋らなかった。途中、神戸珈琲物語上池田本店の前を通ったが、このたびは行く暇などない。真言宗の寺の住職に今後の説明を聞き、祖母の住んでいた家に徒歩で帰る。三人分の布団しかないということで、弟は新長田のホテルに泊まることになった。近所のガストで晩飯を食いながら、父親が祖母の家を別宅として置いておくという手もあると持ち出すが、老朽化しており維持管理が大変だ、それを考えることがまたストレスになる、神戸に来るならホテルに泊まればいいのだと母親とわたしが強硬に反対し、父親は黙る。ともあれ、祖母の家の処分などあとのあとでいい。

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