川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

強化された湯飲みを

年賀状の早割り25%オフを適用させるため、西新井の行きつけのカメラ店に赴く。正月を意識するのも早いのだが、その店が入る商業施設の入口には高さを変えたいくつもの消毒液とともに大きなクリスマスツリーが置かれている。

f:id:guangtailang:20211107192921j:image夕刻、電車の中からHさんにラインのメッセージを送る。飯を外で食ってもいいけど、それともやっぱり家で食う? すぐに返信があって、外で食べましょう。それなら最寄りM駅の回転寿司か、隣りK駅のとんかつか。彼女は前者を選ぶ。はい、了解。Hさんも電車内のようだが、僕の方が早く着きそうなことを察し、先に並んでいてと告げられる。そう、この回転寿司店は週末の夕刻ともなれば番号札を取って、窓際の長椅子か入口付近で数十分待たなければならない。最近はコロナ前に近い活気を取り戻しつつある。

ただ今日は番号札を取ったまま去った者も多いらしく、飛ばし飛ばしですぐに僕らの84番がベトナム人に呼ばれた。奥のカウンター席に座る。まず強化されたふたつの湯飲みに粉を入れ、グイと鉄のバーに押しつける。それから後ろにあらわれた服務員に僕だけあら汁の中碗をたのむ。つづいてタッチパネルでHさんの好物であるオヒョウのえんがわを数皿、その他を注文する。回転している寿司もあるにはあるが、どれも乾燥している。2周か8周して引取り手のないようだが、これでは僕らも取る気にならない。ガリをふたつまみし、ペンペンと皿に乗せる。数分でベトナム人がレーンの向こうから皿を差し出す。それをもらいながらふとレーンの向こうのテーブル席に目をやると、こちら向きに座る女性に見覚えがあった。向こうが気づいていないのをいいことにしばらく見つめて、ああ、駐車場を借りてもらっている人だと合点がいった。なぜしばらくわからなかったかというと、彼女は4人で座っており、他の3人は男性だ。彼女の隣りに若い男性、向かいとその隣りも後ろ姿が若そうだった。友人同士だと最初思った。雰囲気が仕事上で僕が持っていた女性のイメージとギャップがあった。しかし、それはひとつの家族なのだった。彼女の隣りと斜向かいは息子、真向いは夫なのだ。女性は若く見えるのだが、僕よりいくつか下なだけかもしれない。だとしたら、高校生や中学生の子がいておかしくもない。夫は着ている衣服が若いが、顔は見えない。いや、家族かどうかわからないよ、という声があるとして。それでもやっぱり、隣りの男性に対する仕草は母親のそれだし、向かいの男性に向ける表情は夫への、家族へのそれなのだ。勿論、交わす言葉まで聞こえてくるわけじゃない。Mと話したことがある。あたしが母親という感じがする?と訊くから、今ここではしない。でも、きみが娘や息子と一緒にいる時にもしおれもいたら、母親の表情や仕草が出て、ああ母親なんだなあという感じが間違いなくすると思う。ふうん、そうだねと彼女は言った。僕は強化された湯飲みをグイとバーに押しつけた。