川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

アンチョビフィレ

f:id:guangtailang:20211026151754j:image昨晩、ウォーキングのあとにひどく腹がすいてしまい、Hさんが3階にいるのをいいことに、冷蔵庫の脇にある階段下の収納スペースからクラッカーの箱を引っ張り出し、中身を開けるとちぎったスライスチーズをのせ、その上にスカーリアさんのアンチョビフィレをのせて、立て続けに数枚ばくばくと食べてしまった。その後一旦2階に上がり、おもむろにダンベル運動をやったが、また下りて、数枚ばくばくといってしまった。スライスチーズがなくなり止まったが、食べたあとにすぐ後悔がやってきた。Kなら冷蔵庫の中を眺め、そこにある食材の組み合せで栄養のバランスの整った料理をささっとつくるのだろう。そんな伎倆のないおれは以上のような具合だ。Kとの会話の中で、死ぬまでに行ってみたい国としてイタリアを挙げた。彼はベルリンに留学していたから、陽光を求めて当然イタリアには行ったはずだ。それも二度三度と。彼が向こうで知り合った日本人女性と旅行したのはギリシャだったか、いや、イタリアだったはずだ。スカーリアさんのアンチョビフィレはイタリアはシチリアの産だが、そのことが夜9時の暴食を許すどんな理由にもなりはしない。階上のドアが開き、中国人女性の下りてくる跫音が聞こえた。おれはテーブルの上のクラッカーの粉を掌にかき集めると、こそこそとゴミ箱に近寄った。

f:id:guangtailang:20211026151759j:imageTが奇人教授であることは無論大学の同級生であるKも知っている。というか、KこそがおれにT先生がいかに奇人か教えてくれたのだったかもしれない。池袋の書店をふたりでぶらついている時、T先生と出くわしたことがあった。その時、T先生には敬い顔の連れが何人かおり、その雰囲気で奇人だけどやっぱり偉い人なんだと思ったのだ。20年以上も前の話だ。

f:id:guangtailang:20211027111450j:image建畠晢『剝製篇』より)。T先生は今もう70半ばに差し掛かっているはず。みずみずしいな。