川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

痔核モラトリアム①及び②

f:id:guangtailang:20210715195456j:imagef:id:guangtailang:20210715195503j:image痔核モラトリアム①

14日夜。晩飯後、ラキソベロンを200ml以上の水に溶かして内服。

15日朝7時。夜半から腹がぎゅるぎゅる鳴っていた。排便する。8時、家の中にいるような至近距離で急に蝉が鳴き出す。土壌改良のショベルがガッコンガッコン騒音を出す。玄関先でHさんが変に真面目なような顔をしてパジャマ姿で見送るから、そんな大事じゃないんだよと軽く手を振って出発。中国では身内が入院する際、家族で病院まで行くらしいが。

9時45分、無人運転のライナーで行く。乗車客はまばらかと思いきや、あとからけっこう乗ってくる。

10時半、入院。窓からライナーの高架線路がちょっと下に見える。そうゆう時間帯だろうか、わりかし頻繁に走っている。

担当の看護師は小柄でぱっちりした二重まぶたの人。いろいろと説明を受ける。その後、レントゲンと心電図、尿検査。

11時17分、看護師に電気カミソリで肛門周辺の毛を剃られる。彼女に背を向けて横向きになり、自分の脚を抱く姿勢。「痛くないですか?」と何回か声かけされる。あちらはプロですから、こちらは身を任せるのみ。その後、裸でシャワー。あすあさってとシャワーも浴びれない。

12時15分。大腸内視鏡検査のため、モビプレップ1lを飲み始める。と同時に点滴の針を刺してもらう。これをやってくれた看護師はクールな面立ちで背も高そうだったが、こちらが寝ていたので何cmかは不明。「手術、緊張してますか?」「いや、してないです。もうお任せしているので」「そうですよね。やるしかないですもんね」とサバサバと言った。この下剤のちょっと酸っぱいような味がわりかし自分の好みなことに気づいてしまう。ただし、速く飲み過ぎるといけない。

13時半。排便2回目に出血し、丈の長い検査着についてしまう。速やかに看護師に報告。点滴を左腕に刺してわかったが、わたしはプリミティブな動作は左手でやっているのだ。矯正された右利きだから。廊下側の患者のおならが聞こえる。

14時15分。4回目の排便。黄色い水のようなものだ。個室内のコールを押して、看護師に確認してもらう。「うーん、ま、いっか」とOKが出る。

15時20分。大腸内視鏡検査で3階へ。ベッドに横臥し、何か眠くなるらしい薬を点滴の管に入れられ、肛門部分に穴の開いたトランクスを先生側に向ける。ゼリーを塗られ管を挿入されるが、入れられる瞬間ずいとした違和感があるだけで、あとは不快な感覚もなかった。

17時10分。先程の内視鏡をやった先生が病室に来る。特に問題なし。痔核治療に専念せよとのこと。

クオ・ワディス』を少し読んで、その後、テレビを見る。この小説はすでに上巻を読了しているのだが、ここまでなんだか乗れない。ネロ治世のローマの都が細密に、そしてローマ貴族の或る男のコンバージョンが感動的に描かれているのだが、わたしの情動と手を繋がない。翻訳(1972)がこなれていない感じもする。ただ、没頭するほどでもなく、病室で細切れに読むにはかえっていいかもしれない。

19時過ぎ。夜の担当の看護師が来る。眼鏡のはきはきした人。血圧と体温測定。衣服はここに来た時のしか持っていないから、洗濯機があるか訊いたところ、同じフロアにあるとこのと。洗剤は売店で買う(といって、コロナ感染対策で行けないから看護師にたのむことになる)。Mはよくでかい黒いリュックの中に衣服や肌着をたくさん詰めて、それらを勤め先の病院で洗濯している。それがなんとなく念頭にあった。 

民放のバラエティは見る気になるようなのがなかったので、消す。廊下に出てみると実に静かで、ただ空調の音だけしている。今日は絶食したが、ひどい空腹は感じていない。

 

痔核モラトリアム②

夜中に何度か起きてしまう。手術の緊張というよりは、環境が変わったことによるものか。ただ、ここいちにねんは家でも起きてしまうから、壮年の衰えによるものだろう。明け方、廊下側の患者が高鼾をかいていた。

午前6時、照明が点き、眼鏡の看護師が来る。この人は声が大きく滑舌が良い。血圧、体温測定。『クオ・ワディス』を読む。まどろむ。ニュースを見る。まどろむ。廊下側の患者は今日退院するよう。 

11時35分、梅雨は明けたのか。レース越しにも眩しい純白の入道雲。薬剤師の人が来る。わたしと同年配か少し上かもしれないが、細面の穏やかな雰囲気。昨日は眼鏡をしていたが、今日はない。手術後の薬の説明。物が食えないから、ひたすら水と茶を飲む。

15時35分、手術室と同じフロアにある窓のない控室に導かれる。テレビが置いてあり、大相撲が流れている。

16時過ぎ、手術室に入る。妙齢の助手ふたりと院長先生。台に上るとまず自分の膝を抱く姿勢で3回消毒され、腰に麻酔を打たれる。針が挿入される一瞬間だけ痛い。その後うつ伏せになり、テープで尻を左右に引っ張って肛門を開かれる。「脚がポカポカしてきましたか?」と先生に訊かれるが、ポカポカというよりはジンジンと痺れている感覚。手術中、当の場所には全然痛みがないのだが、腹が張ってきてそっちに響く。先生と助手が和気藹々としているので、安心して身を任せていた。「終わりましたよ。なかなかの痔主さんで」というユーモアとともに終了。ストレッチャーで病室まで運ばれる。今これを病室で書いているが、脚はジンジン痺れ、腹が張っている。試みにちんぽこを触ってみるとだらんとして感覚がない。3時間は頭を上げられないし、水分も摂れない。小便は尿瓶へ。18時になったらプロ野球のオールスター戦を観るつもり。今は照ノ富士白鵬の全勝ふたりの取組が映っている。不屈の魂で上り詰め、あるいは角界の頂点に君臨し、すっかり日本人のようだが、このふたりは若い頃羊肉をばくばく食っていたはずだ。

吉田正尚の打席の時に先生と看護師が来る。手術後の報告、出血の有無、血液検査の結果。19時15分、牛乳色の痛み止めの点滴投入。廊下側の患者が変わったが、この人は大腸ポリープを切除したらしく、高鼾をかいている。今夜は男性看護師。『クオ・ワディス』はローマの都市が猛火に包まれる中巻298頁まで読み進んだ。