川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

結露と老人

f:id:guangtailang:20210123232232j:imagef:id:guangtailang:20210123232245j:imagef:id:guangtailang:20210123232254j:image冷たい雨が降っている。予報では明日にかけて関東の平野部でも雪が見られるという。まあ、このあたりは雨のままだろうと思うけど。ふと見ると家の玄関ドアの内側が結露して、全面びしょびしょに濡れている。こんな風になるんだっけなと初めて気がついた感じだ。きれいな乾いたタオルでひととおり拭いたら、湿った雑巾になった。それからダイニングに戻り、カーテンを見た。2階と3階の窓際は結露を気にかけているが、1階のダイニングはキッチンの小窓を開けているだけで、暖房に近接しているカーテン周りの窓は冬期ほぼ開けない。カーテンに寄りかかっている2頭のテディベアが目に入った。雑巾をゴミ箱の蓋上に置くと、テディベアの後ろのカーテンをめくった。サッシュがびしょびしょに濡れている。さらにカーテンの下部もぐっしょり濡れていた。2頭のテディベアを鷲掴みにすると、錨のセーターを着たオスは尻とセーターの下部をだいぶ湿らせていた。赤いブランケットを抱いたメスは濡れていなかった。でも、2頭一緒に乾かすことにした。そのあいだにサッシュをひとととおり拭いて、黒くなった雑巾を捨てた。捨てずに再利用してもよかったが、なんかちょっと腹が立ったから。それにお年賀でもらったやつがまだ10枚くらいある。

浴槽に浸かりながら、ふと思い出した。事務所の前を通る男の老人のことだ。もう80を超えているだろう。背丈は150センチちょっと。ガラス張りの向こうを左から右に歩いていくから横顔を見ることが多いが、鷲鼻で目が落ち窪んでおり、禿げの白髪である。事務所内からみて左側に短い横断歩道があり、一応信号機もついている。が、数歩で渡り切れるものであり、信号を守る者は老若男女10人にひとりかふたりもいない。僕も守らない。その老人は信号を守らない者がいると、出し抜けに怒鳴りつける。それもかなりの大声で。それがまた何を言っているのか聞き取れない。僕も2度怒鳴られて、「こらっ!まだ赤じゃないか!」と言っているようには聞こえた。なんとなく。1度じゃ聞き取れないと思う。老人に怒鳴られている者を僕はもう15人以上目撃している。彼は相手があんちゃんだろうが、サラリーマンだろうが、おばさんだろうが、中学生の女の子だろうが、分け隔てなく怒鳴りつける。その主張は正しい。ただ、この場合のコミュニケーションの在り方として、〈出し抜けに怒鳴りつける〉というのは、日本のみならず世界的にみても、まああり得ないだろう。「赤ですよ」「信号守りましょう」であれば、「すみません」、あるいは無言で遵守するとなる場合もあるわけだ。僕は見たことがあるが、自転車の若者が信号を無視し、老人が後ろから怒鳴りつけた。若者は自転車を停車させ、振り向いた。そして、老人をしばらく睨みつけている。老人も自分は正しいことをやっているという信念からか怯まない。若者は「糞ジジイが」と吐き捨て去っていった。しかし、さらに血気盛んな若者が相手だったらどうだろう。小柄な老人の眼前まで来て、「なんだっ!」と胸を突かれたら、老人はいとも容易く後ろ向きに倒れ、打ち所が悪ければ絶命してしまうかもしれない。そんな想像で僕は最近ヒヤヒヤするようになった。