川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

タイドプール

f:id:guangtailang:20201108200652j:image房総半島のかなり南。左手に犬のリードを握りながらタイドプールを眺める。空は薄曇りで、暑くもなく寒くもない。風もさほどじゃない。母親のおごりでこれから海を臨むテラス席で海鮮を食べるのだが、順番が来るのを待っている。肉球のクッションを駆使して岩場を軽快にウオークする犬に負けぬよう、抄太郎も一歩ごと着地場所を探す。

f:id:guangtailang:20201108200709j:image〈行きはよいよい帰りは怖い〉と言うが、アクアラインの帰りの渋滞は毎度おばけである。だから、帰りは湾岸を北上すると父親も決めている。それだって千葉の人口密集地帯で多少は渋滞するが。運転は抄太郎と代わりばんこ。奇妙なカエルのクリーニング・グッズが両親のクルマにあり、スマホの画面を拭ってみた。

f:id:guangtailang:20201108200808j:image海原に面した海鮮食堂。午前11時半前だが、すでにかなりの来客がある。母親によればテラス席は犬連れ優先なので、犬を連れてこない手はない。抄太郎とファさんは今回初めての店。ファさんはこの立地がかなり気に入ったようだ。息子の嫁シャオレイが海鮮好きなので、疫病終熄し、来日の折には是非連れてきたいと言う。

f:id:guangtailang:20201108200926j:imagef:id:guangtailang:20201108200940j:image先月はじめに大原で伊勢海老の天丼を食ったが、今回は浜焼きで食えた。鉄串で貫いてあるが、熱されたそれを不用意に持って火傷するところだった。海の方を眺めると、岩場のあいだをすり抜けるように漁船が戻ってくる。

f:id:guangtailang:20201108200956j:image道の駅 とみうらに寄ってコーヒーを飲む。犬連れなので、これまた花畑に面したテラス席。犬はテーブルの下でおとなしく伏せている。ばあさんがしゃがんで草いじりをしているおじさんに、「映像で見たらすごかったのに、実際はこんなもんなのね」と話しかけていたけど、ちょっとひどい言い方じゃないと母親が言う。で、おじさんはなんて答えていた? 「わたしら雇われてやっているもんで。これでもけっこう見応えあると思ってるんだけど…」って。少なくとも面と向かって言うもんじゃないな。

f:id:guangtailang:20201108201007j:image帰り道、市原あたりから事故渋滞があると性能のいいカーナビが喋る。やさしく染まったあかね雲の下に市原市(人口26.9万)の工場地帯。この市は面積が大きく、南の方はゴルフ場が多い。先日観た『青春の殺人者』(1976)のモデルとなった事件は市原で起こっている。劇中、水谷が両親の遺体を海中に沈めにいく五井の桟橋は背景に工場群が見えており、こんな開放的な場所でやるかねと疑うのだが、実際の事件でもあの場所が使われたらしい。

f:id:guangtailang:20201108201135j:image渋滞に巻き込まれてしまい、市原SAでトイレ休憩とチャイティーを飲んで気分転換を図る。犬にも水とおやつをやる。両親は抄太郎が生まれる前の一時期、千葉市(人口98.1万余)のマンションに住んで、そこからクルマで東京の職場に通っていた。1970年代前半の話だ。千葉市は暮らしやすかったと母親は今でも言うが、ひとつだけ嫌というか不安だったのが、エレベーターを7階で降りて部屋に向かう、その経路がコーナーになっているのだが、エレベーターの脇にちょうど人ひとりがすっぽり隠れられるようなスペースがあった。日が暮れてひとりで帰って来た時など、その空間が不気味で、視線を向けるのさえ怖かったという。母親も若かったのだな。父親はこの挿話を聞いても、ああそんなスペースがあったような気がするという程度で、朧な記憶しか残っていない。このマンションは現存するので、抄太郎が行こうと思えば行ける。秋の日は釣瓶落とし

f:id:guangtailang:20201108205844j:image事故渋滞と言ったが、それで車線が制限されている様子もなく、いつも渋滞している地帯がさらに拡大されていたような感じだった。「事故は関係ないな。単にクルマが多い。コロナでみんなクルマが安全だと思っているんだ」と父親が呟くのを聞きながら、抄太郎は蜜柑を剝いて頰張る。柑橘の匂いが車内に広がる。

午後7時帰宅。

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