川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

いとこん

ファさんが月餅を「げぴん」と発話するのはまだその指示するところのモノを推測できる。それ混ざってるから。「げっぺい」ね。覚えといて。先日、彼女が電話で誰かと話している最中、出し抜けにベッドで横臥する私に「いとこんてどこ?」と訊くから、どこっていうことは地名かそれは? と訊き返さざるを得ない。なぜか最初に「糸紺」というデニム生地のような漢字が思い浮かんだ。そんな地名はない。しばらく考え、「伊豆宮( yīdòugōng)」かなと思ったが、検索してみると富山市に伊豆ノ宮駅、長野の東御市に伊豆宮ハイツ、熱海に來宮神社があるだけで、どれも違うだろう。伊豆ノ宮駅に至っては廃駅になっている。あるいは「いたこん」として、もしや「潮来」かい? それならふたりで何度も行ってるぜ。不是的。そこは彼女、明確に否定する。その時はそれで終わった。が、翌日もあなたが朋友とキャンプに行っているあいだ、あたしはいとこんに行くかも知れないなどと言うので、いとこんてどこよ? 昨日の電話の人にどう書くのか訊いてみてくんろ。いとこん。いどごん。と謎が再燃した。で、今晩。また件の相手と話しているようだ。ベッドに横臥している私は、いとこんどう書くか訊いてとファさんに身振り手振りで伝える。彼女が訊ねる。すると、電話口から福建人という相手の発話が聞こえてくる。ゆ・ど・ごん。ごんはもう「宮」で決定だろう。ゆ・ど、、ゆぃ・どぅ、ごん、、ぽぴー!! うつのみやかもしかして? 「宇都宮(yǔdōugōng)」。ファの発話は最初いとこんとしか聞こえず、それで「伊豆yīdòu」に引っ張られてしまった。「宮(gōng)」の方で推していけばもっと早く答えにたどり着いていたかもしれない。しかし、人間そんなものなんです。飛島を飛鳥と読んで奈良の昔と思い込んでしまうように。ドイツ人が美容院と病院の違いを聞き分けられないように。南方人のファさんの四声はわりかしゆらぎがあるので、むつかしかった。電話の相手は宇都宮在住なのだ。人口51万8千余の北関東最大都市。結果、いとこんの謎を解くのに時間を要し、ファさんを煩わせた私が傻瓜として罵られました。