鶴岡抄太郎は建築の門外漢だが、妹島和世の日立駅はやっぱり素晴らしいじゃないかと思う。一面のガラスからみえる大海原。海上にコンクリート架橋された自動車道路(日立バイパス)。常磐道から日立駅に向かって坂を下りていくと、空と海のあわいが判然としない。こうゆうロケーションとストラクチュアの駅舎は他にありますか。
27日、曇り。諸沢地区の深部に休場展望台(やすんばてんぼうだい)はあるのだろうと、事前に調べて鶴岡は当たりをつけていた。一応は地図に展望台までの道が載っているが、いかにも頼りなげな細道で、これは実地に走りながら探した方が見つけやすいんじゃないかという気がした。
しかし、迷った。当たりをつけた場所をナビの目的地に設定したのが間違いで(だいたいこのナビのデータは古い)、奥久慈パノラマラインとかいう鬱蒼とした林道に入り込み、なにかおかしいと途中で引き返す。水たまりが多く、クルマは車体側面に泥を跳ね散らかした。その後、勘で踏み入った細道が今回走った中でもっとも危険で、舗装はされているものの、小暗い中に落ち葉が積み重なり、ガードレールもなかった。それで勾配を上るのだから踏み外したら絶命すると思い、ウィンドウを開けて道幅を確認しながらそろそろと進んだ。結果的にその道でよかった。メインの行き方ではなかったにせよ。
茨城の秘境についにたどり着く。この緑の波浪は見る価値があると言える。ただ、残念なことがひとつあった。展望台に人糞がひり出されている。かなりの量だ。蠅がぶんぶん飛んでうるさい。誰の仕業か。ここから3分と歩かない駐車場の脇に公衆便所があるではないか。鶴岡の推理ではこうだ。我慢すれば便所まで行けるのを、雄大な景色を眺めながらうんこしたかった。もっと言えば、便意を催すのを待って展望台に来たかもしれない。ベストヴューのポイントに野糞はされている。人は滅多に来ないから、本人はさぞ爽快な気分に浸れたろう。しかし、今日おそらく2番目に来た鶴岡の身にもなってみよ。他人の糞ほど厭なものはない。
道の駅常陸大宮かわプラザで鮎天重。この頃、陽が射しはじめる。久慈川を眺める老年の哀愁の背中を同じ画面に収めながら。
日立駅①
日立駅②
日立駅③
海上にコンクリート架橋されているというと、個人的にはまず上越の親不知が思い浮かぶね。
この階段を下りた先にある民家なんかは津波の際どうするんだろうと思うのだが、前回来た時に見知らぬ母娘がガラス越しに見下ろしながら同じことを口にしていたので、だいたい皆考えることなんだ。
※東京でクルマを始動させようと乗り込んだ時、スマホの画面が光り、竹内結子と死去の文字が目に飛び込んできた。先月初めくらいから、『サイドカーに犬』(2007・根岸吉太郎監督)を動画配信ででも観ようかと思い、頭の片隅に留めていたので驚いた。ここのところ、連鎖と言ってもよいほど壮年期の俳優の自裁がつづいているが、まさかこの人がという人がまたひとり。すでに多くの人が指摘しているように、報道されている死に方が酷似しているのが怪異である。