川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

亀裂

f:id:guangtailang:20200603203341j:image早めの夕食を食べ終え、ウォーキングに繰り出す。ここ数日は低調で、トドメが昨日だった。仕事上の否応ない作業の一環で、駐車場の端に吐かれたゲロのような物体を片付けなければならなかった。午後の強い陽光が照りつけるなかでまず現場を確認するが、すでにカラカラに乾いており、ゲロと言えばゲロに見えるし、違うと言えば違うモノにも見える。臭気はない。見ているうちにこれはゲロじゃないだろうという気がして、では何だと考えながら事務所に戻り、納戸からポリタンクを取り出し、何十リットルかの水を汲み、スコップと割り箸をビニル袋に入れ、現場に戻る。水を勢いよく流してみるが、物体はアスファルトにこびりついたまま少しも流れていかない。そのくせ長年愛用するウィングチップと背広に水が撥ねまくっている。私は顔をしかめながら荒々しく背広の上を脱ぎ、振り回した。するとその拍子に胸ポケットのスマホが宙を舞い、ブロック塀に当たり、したたか地面に叩きつけられた。拾い上げると、画面の左上から下に向かって一直線に亀裂が走っている。そのひびを指で何度も撫ぜながらやり場のない怒りに駆られつつ考えたのは、不幸中の幸いにも画面の端なので今後の使用に支障はないだろうということだった。私は午後の強い陽光を浴びながら、放心したようにしばらく立ち尽くしていた。

f:id:guangtailang:20200603203359j:image隅田川沿いのウレタン敷きジョギングコースを歩く。人が多い。Hさんが気づいたが、バードサンクチュアリの区域にある樹木のボリュームが増している。ちょっと来ないあいだにこんなに繁茂するものかというほど。一部の枝はコースにまで大きく張り出している。

コースから親水プロムナードに下る芝生の斜面を眺めるうち、一個のひらめきがあり、Hさんを上、私が下、すなわち川面を背にしてフリスビーを投げ合う。キャッチし損ねたら川ポチャもあり得るというスリルを楽しむのだ。風はある。が、互いにある程度スローイングに熟達したこともあり、そんなにあらぬ方向に投げ損なうこともない。間隔もそう離れてはいない。投げ合っているうち、ヴェールを重ねるように宵闇が迫ってくる。外灯も附近になく、フリスビーの輪郭が曖昧になってきたところで引き上げる。

ゲロのような物体はゲロではなかったと思う。が、結局その正体はわからなかった。