大晦日、晴れ。私は部屋や便所、Hさんはダイニングや玄関の掃除をしたあと、北千住に繰り出しました。人混みに揉まれながら目抜き通りを歩いていくと、不覚にも目的の喫茶店が閉まっていたため、思いつきで駅前のカラオケボックスに入ります。どうゆう風の吹き回しか、ふだんは頑なに歌唱しない彼女がこの時は違いました。何を唱うのかと思ったら、まず邓丽君(デン・リージュン テレサ・テン)の「小城故事」を入れよと言うので、DAMのデンモクを操作します。この歌は短いので喉咙慣らしらしく、私が周杰伦(ヂョウ・ジエルン ジェイ・チョウ)の「告白气球」を唱い終わるやいなや、张雨生(ヂャン・ユィシェン)の「大海」を入れよと指示されます。
気持ち良さそうに唱うと、間奏のところで、この歌は自分が上海郊外に理髪店を持った当時、よく聴いていたのだとマイク越しにコメントがありました。原来是这样。朱家角(ヂュージアジャオ)のある青浦(チンプー)区のことです。温かいジャスミン茶を飲むHさんの横顔をしばし見つめる。
店を出ると、突風が彼女のスカーフを派手に捲り上げ、私の髪をむちゃくちゃになぶりました。シュライヒなどの小動物(シャオドンウ)を洗ったのですが、室内で乾かして正解だった。
2019年、最後の1本、『離婚しない女』(1986・神代辰巳)をDVDで。ジャケットの裏側(というのがおもしろい)に真魚八重子さんの秀逸な解説があり、観た後にそれを読んだら、この映画についてさらなる贅言は要しないと思ってしまいました。【以下、役名では呼ばす、俳優の名で呼んでいます】
倍賞姉妹が共演し、36歳のショーケンを取り合う話。
最果ての地、根室と釧路を電車で行ったり来たりするショーケン。ふたつの町にそれぞれの女がいるから。
どうもこの映画のショーケンは疲れている。渋みというより、やさぐれている。やけくそなところがある。
夜、年上の女に呼び出されるが、シャンデリアの切れた電球を交換するだけの用事。終わると早く帰れと言われる。外形的にはそうゆうことだが、内部では男女の情念が激しく揺らいでいる。
何度か挿入されるプールの場面の漂泊感はいいのだが、倍賞美津子がやっている店のクラウンが藝をしながらちょろちょろするのはちょっとケレン味が過ぎるんじゃないか。
すでに廃駅となっている花咲駅。最果て感が半端ない。こうゆう狭雑物のない場所だからこそ、男女の関係を純化して描けるということなのかしら。
呼吸はしているが、却って息苦しさを感じる。とかなんとかナレーションが入る。
町の有力者で、妙に虚ろな笑いを響かせる夏八木勲。世俗的に価値のあるものは手中に収めており、そうしたところで所詮は最果ての地で生きてゆかざるを得ない。ニヒリズムに陥っているのか。ショーケンに目を掛けており、妻との不貞を知りながら泳がしている。ショーケンはフォークを瞼に薄く刺す。
2020年1月2日、晴れ。何鲜菇で私の両親と一緒に昼飯。
両親はヘルシーだ、スープがうまいと思いのほか喜んで食べる。中国のどこが発祥かと服務員に問い、大連との答えを得る。
年末に、ふだん行かないサイゼリヤへ2回も行ってアロスティチーニ(ラムの串焼き)を食べようとしたのだが、2回とも売り切れだった。冬でも雪駄を履く友人のツイッター情報によれば、全店舗で切らしているらしい。ここ何鲜菇ではいともたやすくありつける。彫りの深い顔の友人が、池袋か上野か西川口に食べに行きなさいと書いたのも頷ける。