にっかつロマンポルノ、『人妻暴行マンション』(1985・監督 斉藤信幸)をFANZA動画で。題名から想像されるようなハードヴァイオレンスな描写はない。外部(第三者)からの深刻な介入や打撃のない、その意味ではむしろほのぼのしたミニマルな夫婦生活が描かれる。なので、斉藤監督にしてはややエッジに欠けるかも知れない。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】
冒頭、窓辺に置かれたゴジラのぬいぐるみが咆哮する(にっかつなのに)。朝の支度をする渡辺良子と河原さぶの夫婦。ふたりは無言だが、オフの声でふたりの会話が聞こえてくる。お役人の方とお話しするの、初めてなんですよね。やっぱり、つまらないですか。
さっきの会話は過去にふたりのあいだで交わされたものなのだ。結婚して1年半、新宿の茶色い分譲マンションに住んでいる。河原が安定した役所勤め、渡辺もバリバリ働いており、彼女の強い希望で子供はつくらないことになっている。当時この言葉は人口に膾炙していなかったろうが、いわゆるディンクスというやつだ。
ゴジラのぬいぐるみ。劇中、たびたび登場する。
ミニマルな夫婦生活を順に追っても話の流れが単調になるので、現在の生活に内心不満を抱いている河原の回想シーンを挿入する構造。ふたりはお見合いで出会った。夜の帳が下りる頃、渡辺が河原の部屋を訪れる。窓を開け、眺めがいいと褒めると、河原が横に来て、あれが私鉄です、7分おきに来るんですとか変に几帳面なことを言う。丸い眼鏡をかけた渡辺もいいが、こうしてトレンチコートを纏った彼女も魅力的で、きっと仕事にかまけて婚活をしてこなかったのだろうが、典型的な男目線でいえば、喋り方がちょっと堅いのにグラマラスな体型で、こんな女性がお見合いであらわれたら大変なことになりますよ、と思う。
この後、和服姿の自分のお見合い写真を見つけ、その浄さに気が咎めたのか、調子に乗り過ぎちゃったみたい、帰ろうかなと言う渡辺を、送っていきますと河原が追い、あ、ストーヴ、大丈夫ですよ、でも、と渡辺が部屋に戻ろうとした瞬間、躓いて河原ともども台所に倒れ込み、その流れで交接する。ストーヴの赤い光に照らされながら。
1985年のトワイライト。
朝日の差すマンションの部屋。昨夜、送別会で痛飲し、「銀座の恋の物語」を口ずさみながら同僚に送り届けてもらった渡辺。なぜ自分は素っ裸なのかと訝る。河原は服を脱がし、ベッドに寝かせてやっただけだ。
役所の上司、上田耕一。この男が変態で、河原にいろいろと淫猥な遊びを教える。これは電話ボックスに男ふたりで入り込んで、テレフォンセックス(懐かしい)を楽しんでいるところ。ふたりのいやらしい顔に注目。
帰りが遅く、疲労ですぐに眠ってしまう渡辺に不満な河原は、深夜、以前浮気した女とのテレフォンセックスを試みたりする。最中に、女の部屋に入った晩の回想が挿入される。朝帰りし、徹マンなどと言い訳するが、渡辺に疑惑の目で見られ、着ていたものをすべて洗濯機に放り込まれる。素っ裸の河原は誤解だよと言いながらゴジラで股間を隠す。贅肉のない躰をしている。
おれだって「銀座の恋の物語」くらい唱えるという河原。雨で街の滲む夜、エレヴェーターの中で口ずさむ妻につづけて、タクシーの後部座席で夫も口ずさむ。渡辺は彼の肩にしなだれている。いい夫婦じゃないですか、と思う。
しかし、夫婦にもかかわらず毎度コンドームをつけるか、或いは口でしてあげるという妻に、ついに堪忍袋の緒が切れた夫は実力行使に出る。そう、せいぜいそう表現できる程度であって、暴行と言えるほどの苛烈さがあるかどうか。むしろ、抵抗の過程で妻に蹴り飛ばされた夫が鼻血を出す。体格的にも妻の方が夫よりもボリュームがあるし。ただ、夫から妻への平手打ちはたしかに一度ある。何よりも夫に本気で妻を痛めつけよう、妻に本気で夫を拒もうという態度が感じられない。あまつさえ、無言や悲鳴のうちにヴァイオレンスが進行するどころか、途中で妻が夫に詰問さえする。ぬいぐるみのゴジラの咆哮も却って緊張感を和らげている。
夫婦仲良く歩いていると、ふぎゃふぎゃ泣く赤ん坊とすれ違い、渡辺が振り返る。