1980年代前半の山崎努を見るべく、「松本清張シリーズ・けものみち」(1982・演出 和田勉、脚本 ジェームス三木)をNHKオンデマンドで。主演は名取裕子。20代半ばで、ほぼ実年齢を演じている。当時、仕事上でトラブルに陥っていた名取に和田が直接電話して出演依頼したという。以後、生涯にわたって家族ぐるみの付き合いがあった。山崎は得体の知れない男(表向きはホテル支配人)を演じる。清張モノは現在までたびたび映画化・テレビドラマ化され、無論そのことを知らないわけじゃないが、小生は小説もあまり読んでいないし、2006年の米倉涼子版も観ていないから、「けものみち」はこれが初めてだ。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】
冒頭、ムソルグスキーの「禿山の一夜」がけたたましく鳴り、不穏な物語のはじまりを告げる。どしゃぶりの中、名取の夫でやくざの石橋蓮司が刺される。料亭の仲居をやっている名取は客の山崎と一夜をともにする。次に会った時、彼から奇妙な提案を持ちかけられ、逡巡の末、それを受ける。名取は半身不随となっていた石橋を失火に見せかけて殺し、山崎が比喩として言った「行き先のわからない列車」に乗り込む。ちなみに時代は東京オリンピックの2年前、昭和37(1962)年に設定されている。
芳扇閣仲居、名取。
なんとも胡散臭いが、力も持っていそうな山崎。すなわち、人間世界のけものみちに通じているということ。
石橋の死が失火によるものではなく殺人だと疑っている刑事、伊東四朗。40代半ばで演じる。
まだ多少あどけなさも残る名取。
苦み走る山崎。今の40代半ばと違い、チャイルディッシュなところが少しもない。
ホテルの山崎の部屋まで赴き、尋問する伊東。この時、名取は右奥のドアーの裏側に隠れている。とにかく誰も彼もがタバコをすぱすぱやっている。80年代(60年代の設定だけど)はそういう時代か。
女と男。
行き先のわからない列車に乗る、けものみちを歩くというのは政界のフィクサー、西村晃の身辺の世話をする、すなわち彼の玩具になることだった。初見の際、「どこの生まれ?」と寝たきりの西村が訊ね、「富山県でございます」「越中女か。富山のどこだ?」「伏木というところでございます」「高岡から海岸に入ったところか」「はい」というやりとりがある。この問いは結末の方で新しい女が来た時にも繰り返され、若い女は福岡の二日市と答える。
西村の屋敷の責任者、加賀まりこ。
全3話の1話目が終わったところで、劇中、西村の屋敷の庭としても使われた清張邸にて、清張がふたりにインタビューする映像が流れる。
クローズアップされる清張。
クローズアップされる山崎。
風呂場で躰を洗ってもらう西村。身体的には衰えているが、闇の大物の気色悪さを好演する。
警察署内でも失火として処理された事件を、アウトロー的に追いかける気骨刑事伊東。名取を見つけると無理やりタクシーに相席する。
元の出自は同じように庶民階層なのだが、数奇な運命により激しく対立する名取と伊東。
毎回、冒頭にこの電光掲示が流れる。
塩見三省。新聞記者の役だが、30そこそこで演じており、『アウトレイジ』の強面は少しもない。むしろ伊東の方が強面なんであって、その伊東はこの後、西村の放った刺客により溺死体となって発見される。刑事を馘になってまで事件の真相に迫っていたが、非情な結末である。
眼鏡をかけたフィクサー。身体的には衰えているが、頭脳は冷徹きわまりない。
西村の玩具であることにも倦んできた、どうしても山崎のことが忘れられない名取。山崎はホテルの支配人を辞め、赤坂の骨董屋になっている。西村は山崎をCIAじゃないかと疑う。最終的に西村を裏切った名取と山崎は殺されるだろう。絶望的な逃避行の途上、山崎のメルセデス・ベンツをあらゆる方向から刺客の車輛が囲んだところでこのドラマは終わる。ふたりしてけものみちから転げ落ちたのだ。
西村に毒を盛ったことを疑われ、衰弱死に追い込まれる加賀。
ラストのふたりには小生、見惚れました。