川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

中島葵の映画

日活ロマンポルノ、『OL日記 濡れた札束』(1974・監督 加藤彰)をDVDで。凡庸な作品だと思うが、70年代の匂いがぷんぷんする映画。時制をいったりきたりするが実直な筋運びで、70年代を撮りまくった藤田敏八のような洒落っ気や気分で筋が停滞するようなこともない。このふたりの監督は同じ1974年にジュリー主演の『炎の肖像』を撮っているのだ。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

冒頭、安アパートの貼紙をみて、その部屋に越してくる中島葵。髪はかつらのような短髪だ。みすぼらしい壁にタイトルバックが浮き上がる。この時点で中島は勤めていた銀行の金の横領が発覚しており、偽名を使って部屋を借りる身なのだ。

f:id:guangtailang:20190621222453p:plainアパートの大家のばあさんと出かける。大阪の工業地帯の陋巷に隠れているのだが、本格的に隠れるというよりは早晩見つかることを覚悟しているような隠れ方だ。それはすでに一度、絶望をくぐっているから。肉体労働に従事する気のいい男と一緒に暮らしもする。

f:id:guangtailang:20190621222548p:plain時間が遡り、中島が銀行に勤めていた頃。同僚の結婚式のあと、オールドミスの中島を陰で嗤う同僚の女たち。この窃視のようなカメラアングルはいいですね。

f:id:guangtailang:20190621222626p:plain時間は現在に戻る。一応、部屋にも調度が整い、気持ちも落ち着き、花瓶に花を活ける余裕も生まれている。元は実家が華道の家元みたいなので、中島は上流階級のお嬢様なのだが、現在は小料理屋で皿洗いのアルバイトをし、賃金を稼いでいる。

f:id:guangtailang:20190621222652p:plain時間はまた過去に遡り、ひっつめ髪で化粧っ気のない銀行員時代の中島。ひょんなことからタクシー運転手の男と昵懇になる。しかし、この男がまるで甲斐性のないとんだ食わせ者であることがのちにわかってくる。堂下かづきが演じる。

f:id:guangtailang:20190621222718p:plainすなわち、ひどいギャンブル狂いで、競艇にどんどん金をつぎ込み、その元手を中島に無心するようになり、それで彼女は銀行の金を横領するようになったのだ。では、なぜそれほどまでにこのつまらぬ男に中島が入れ揚げたのかというと、若い堂下の肉体的な魅力の虜になったから。

f:id:guangtailang:20190621222758p:plain中島には姉がおり、絵沢萠子が演じる。暗渠のようなトンネル(高架下か)に下っていく姉と別れる。ふたりの歩きながらの会話は寒い風が吹きながらも味わい深いものであった。

f:id:guangtailang:20190621222856p:plain象徴的な画なのでしょう。札束と競艇ボートと悶える中島。

f:id:guangtailang:20190621222933p:plain空港のフェンス脇で最後のやりとりがあり、男のためにどこまでも、犯罪に手を染めてまで尽くした女をいともたやすく捨て、堂下は中島を置きざりに逃げ出す。中島の哀れさに胸がつまる。この映画、中島葵は全編にわたって素晴らしい。

f:id:guangtailang:20190621223100p:plain時間は現在。中島が部屋で花瓶を洗っていると、刑事が数人で踏み込んでくる。本名をいわれると素直に認め、ちょっと手紙を書かせて下さいと座り、同棲する気のいい男に数行の短い謝罪を書く。動顛している様子は少しも無く、まったく予期していたように。

大家のばあさんは部屋がまた空いたので募集の貼紙を出す。

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