午前8時30分、事務所に到着。友人Jのティエトウがすでに道路脇に駐まっている。助手席に乗せてもらい、始業まで荒川区のニュータウンを15分程ドライブした。梅雨の晴れ間で、開け放たれたウィンドウから気持ちの良い風が入ってきて僕らの髪をなぶった。
ティエトウとは何か。彼の乗るジャングルグリーンの新型ジムニーのことだ。去年の7月に購入し、納車が今年の5月の大型連休前だったという。そこから即座に妻、妻の妹と東北・北海道旅行に出発し、2,800kmを走破した。大陸かっ! いいえ、島国です。
なぜ、ティエトウなのか。ティエトウは「鉄頭」の中国語(普通話)読みで、かの地の簡体字では「铁头」と書く。ジムニーは無論大部分が金属製であり、シンボルマークの犀も鉄のような頑丈な皮膚を誇っているわけで、愛称として「鉄の頭」と呼ぶことはそれほど不思議ではない。が、諧謔精神で鳴らすJのこと、もう少し込み入った来歴がないでもない。『新宿インシデント』(2009・監督 イー・トンシン)という映画がある。かいつまんで言えば、1990年代初頭に密入国で日本に来た中国人たちの顛末を描いたもので、ジャッキー・チェン(成龍)が主役を演じる。おもしろいのは、彼が自家薬籠中のものとしているアクションを基本的に封印している点で、実際にはアクションはあるのだが、成龍は素人のように振る舞っている。そして、彼の渾名がティエトウである(本名は趙鉄、赵铁)。ティエトウを追う(大部分、助けるが)刑事として竹中直人演じる北野がおり、彼は大学時代に学んだ日常会話程度の普通話を喋る。映画のラスト、傷ついたティエトウが地下水道の急流に押し流されながら、北野に向かって何事か叫ぶ。北野も叫び返す。铁头! 你说什么? 说什么哪?!… Jの脳裡にこの場面がこびりついてしまい、いつまでも彼の内部で谺するので、待ちに待った愛車についティエトウと名付けてしまったという。
ティエトウを駆って、カシマサッカースタジアムを目指すJや天真爛漫な彼の妻の姿が目に浮かぶ。