川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

剝ぐ!

梅雨ですなあ。にっかつロマンポルノ、『美姉妹 剝ぐ!』(1985・監督 上垣保朗)をFANZA動画で。小田かおると赤坂麗のダブル主演で、前者が妹役、後者が姉役である。それにしても「剝(は)ぐ」というのはおもしろいが、別に「剝(む)く」でもいいと思う。『美姉妹 剝く!』。要するに覆われていたものの中身を露わにする、ということ。66分とコンパクト、内容的にも地味で小品の趣きだ。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

雨に濡れ光るレインボウ、佇む女。

f:id:guangtailang:20190611235117p:plainWikipediaでみると、実際は小田が赤坂より一つ年上だ。映画の設定では小田が赤坂より三つ年下である。父親が資産家らしく、彼の購入したマンションでふたりは暮らしている。部屋の外側から窓越しに彼女らを映す場面が何度か出てくるが、低層階に住んでいるようだ。

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80年代中盤の出版社風景。小田かおるは大学時代から付き合っている男石井繁樹の紹介でここに勤めている。

f:id:guangtailang:20190611235221p:plainセクシーというよりいやらしいな。添削に真剣になって無意識に鉛筆を銜える小田に軽口を叩く石井。

f:id:guangtailang:20190611235247p:plain一方、赤坂は食品研究所に勤めており、上司の大林丈史と不倫関係にある。この仕事の設定はおもしろいが、80年代でも実際こんな風に研究、そして商品化していたかどうか疑わしい。たぶん、それらしく撮っただけだろう。

f:id:guangtailang:20190611235316p:plain姉妹仲は基本的に良好だが、不倫を肯定する姉を苦々しくも思っている妹。ちなみに姉役の赤坂はわずか1年ほどの活動で引退してしまうが、妹役の小田かおるはロマンポルノに留まらず、テレビのバラエティ番組や一般ドラマ、アダルトビデオにも出演するなどその活動は多岐にわたっているようで、Wikipediaの略歴を覗けば、2000年代に入ってからも起伏の激しい人生を歩んでいる。

f:id:guangtailang:20190611235409p:plainかつては家族ぐるみで赤坂と付き合っていた男池田光隆。赤坂に捨てられ、いまだ未練たらたらなため電話をかけてくるのだが、彼女は取り合わない。それで本を返してもらう口実で小田の出版社のビルで待ち伏せし、赤坂に伝言するよう頼む。生真面目で暗さのある表情。訪れた姉妹のマンションで激情から小田を犯すが、途中よりされるがまま虚空をみつめる小田の表情に我に返ったか、最後は謝ってしまう。小田は池田が哀れに思えたとのちに語る。

f:id:guangtailang:20190611235438p:plain大林が中国へ単身赴任するという。そのことが大林と姉妹の会食で明かされるのだが、「中国」というだけで終わらすのはちょっと漠然とし過ぎだ。たとえば、上海とか北京とか、あるいは広州とか、都市の名前で云うのが普通だろう。しかし、姉妹も中国のどこなのという問いは発さない。大林が去ったあと、彼の明るい事務室のデスクに座り、彼の残していった煙草を指に挟み、火を点けずに吸う真似をし、彼の幻影を追う。80年代の中国は日本人にはまだ遠かったか。

f:id:guangtailang:20190611235518p:plainf:id:guangtailang:20190611235541p:plain犯されたことを石井に告白し、その時に返ってきた反応がひどいものだったため、「さよなら」と別れた彼と酒場で小田はまた会ってしまう。そりゃ、部署は違えど職場も一緒だし、なにかと会ってしまうだろうよ。石井の問いに愉しいか哀しいかわからないから酒を飲んでいると小田は呟く。おれ、さよならって言葉、嫌いなんだ。だったら、こんにちはって云えばいいの。

f:id:guangtailang:20190611235618p:plain結局、赤坂は大林を追って中国へ、小田は石井と縒りを戻すようなこととなる。ラスト、食品研究所の屋上に母親に取り上げられていたパスポートを持ってきた小田と赤坂。妹が姉に協力した恰好だ。転がってきたボールを小田があらぬ方向に投げ、それは柵を越えて外に落下してしまう。小田と赤坂が笑顔で振り切るように駆け出し、スローモーション。

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