川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

台風の下でじっとりと

にっかつロマンポルノ、『待ち濡れた女』(1987・監督 上垣保朗)をFANZA動画で。ロマンポルノは88年の6月で終了するので、これはその掉尾を飾ったといって過言でない秀作。設定がいいんだろうな。静岡の山間の古民家に住む女。その一帯に台風が接近し、ついに来た時、数ヶ月前に別れた男が復縁を迫りにやって来る。そこから台風が抜けるまでの数日間、びしゃびしゃと雨風の降りかかる家の中で、若くはない男女の情交がねっとりと描かれる。【以下、ナタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

奥之澤駅。調べてみるとそんな駅はないのだが、静岡中部の内陸の設定として私は観ていた。降り立つ高橋長英。これが男。

f:id:guangtailang:20190609184519p:plain台風接近の報を聞き、瓦屋根の一部が雨漏りするので梯子をかけて上り、修繕したのち周囲を見渡し、背伸びする中村晃子。汚れた蹠を風呂場でごしごし洗う。これが女。

f:id:guangtailang:20190609184621p:plain若いカップルも出てきて、若くはない男女とある意味対比的に描かれるのだが、個人的に前者のパートはおもしろくないので割愛します。後者のミニマルでじっとりしたやりとりをみていたい。

f:id:guangtailang:20190609184653p:plain台所と洗濯機。中村晃子はこの時40手前で、手足の長い引き締まった躰をしている。Wikipediaでみると私の父親と同い年のようだ。

f:id:guangtailang:20190609184735p:plain初日。中村にすげなく追い返された高橋は駅に戻るが、台風で電車は動いていない。それで駅前のスナックに飛び込むと退屈そうな女がいて、一応酒を注いでくれる。女を亜湖が演じる。ちなみに高橋は47歳の左官である。この後、「長崎の夜はむらさき」を聴きながら妙に意気投合したふたりは亜湖の部屋で交接する。

f:id:guangtailang:20190609184816p:plain高橋の持ってきた弁当をつい受け取り、もぐもぐしてしまう中村。この男に罵倒され、暴力を振るわれ、実家に避難したのだったが、かつては一緒に暮らしていたわけで、口では拒絶を言い立てつつも、今一歩邪険に突き放せない女がいる。むしろ、少しずつ男にほだされ、受け入れているのだ。テレビでは台風の被害状況が映されている。ところで、食膳の向こうに見える民藝品はなんというのでしょうかね。

f:id:guangtailang:20190609184855p:plain高橋はちゃんと中村が返事をくれるまで指を触れないようなことを云いながら、駅前に戻ると亜湖との交接を重ねており、肉欲の虜である。しかし、このような肉欲を否定できる自信は私にもない。亜湖は亜湖で場末の生活に倦んでいるのだ。中村は駅前の宿に高橋の様子を見に行って、若いカップルの男に跡をつけられる。ものすごい風雨の中でのことである。ずぶ濡れになった男を家に招き入れ、風呂を焚いてやり、話相手をするが、不意に停電になる。蠟燭の灯りの中で中村は高橋から受け取っていた5万円の入った封筒を彼に差し出し、あなたを買う、と云う。

ぴちゃぴちゃと水の床を叩く音に女が目覚めると、修繕したはずが雨漏りしてしまい桶を置いたのが暗闇の中で溢れ出している。このあたりタルコフスキーばりに水の音が響く。全裸で蠟燭と金バケツを手に赴き、桶と交換すると、今度は水の金属を叩く音に変わる。

f:id:guangtailang:20190609184935p:plainf:id:guangtailang:20190609185011p:plain台風一過、去り際の若い男と民家の玄関先ですれ違った高橋は、結局、中村と縒りが戻ったようなことになってしまう。この抜け抜けと老獪な感じを高橋がよく演じている。縁側の中村は乱雑になった庭の泥に跳ねる一匹の魚を見つけ裸足で下りると、男の精液を拭ったパンティを入れた金バケツに魚を入れる。部屋の中で寝転んでいる高橋が、何事もなかったように夫面(おっとづら)して、風呂沸かしてくんねえか、出たあとはビールがいいななどと云うと、中村はバケツの中身を中空にぶん投げて、ばかっ!と叫ぶ。そして、縁側に座り汚れた蹠をごしごし拭う。

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