川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

階層

ロマンポルノの秀作として名高い『狂った果実』(1981・監督 根岸吉太郎)をFANZA動画で。ロマンポルノの1本とはいえ、ここにはロマンもポルノも希薄である。代わりに峻烈なリアリズムが色濃く、男女のあいだの階層の違いによって凄惨な結末をもたらす。正直こういう話はあんまり好みではないのだが、さりとて優れた映画であることは間違いない。主演のふたり、本間優二と蜷川有紀が良いし、脇を固める益富信孝、永島暎子岡田英次も良い。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名前で呼んでいます】

走ることを日課にしている本間優二。この人は暴走族上がり(ブラックエンペラー)とのことで、道理でキレた時の演技に迫真力があるはずだ。いつキレるかという危うい感じが映画を牽引している。昼はガソリンスタンド、夜はピンクサロン(実態はぼったくりバー)で働く。鯉こくをつくって母親に電話するところから、信州出身の設定か。衣服を脱ぐシーンでは引き締まった躰があらわになる。

f:id:guangtailang:20190327083904p:plainピンクサロンの経営者益富信孝とその情人永島暎子。このふたりがいかにもという雰囲気を醸し出しており素晴らしい。益富はかつてタイキックの選手で魁偉な風貌、永島はあっけらかんとしてちょっと足りない感じ。

f:id:guangtailang:20190327083958p:plainf:id:guangtailang:20190327084030p:plain蜷川は義父のスポーツカーを借りて本間を追っかけ廻し、ついに同乗させる。本間がハンドルを握り、Uターンした途端に強い雨が降り出す。倉庫街のような場所でクルマを停め、本間が昂奮して蜷川を押し倒し、車外に転がり出てふたりずぶ濡れになる。事を終えると蜷川が高笑いし、あたしも途中からその気になりかけたみたいで滑稽でしたと云い、クルマで立ち去る。

f:id:guangtailang:20190327084104p:plain後日、本間の働くガソリンスタンドにあらわれた蜷川は強姦魔と云いふらし、仕事に集中を欠いた本間は客のクルマをぶつけた上に店長に突っかかり、失職する。蜷川は自分の生きているさまを「漂っている」と表現するが、経済的に何不自由なく暮らしている大学生であり、本間との階層の差が際立つ。そして、その差によって蜷川は本間に魅力を感じているのだ。

f:id:guangtailang:20190327084129p:plainインテリア関係の仕事をしている蜷川の義父岡田の別荘。窓外に海がみえる。私がスペインでガウディの研究をしていた頃に学んだ家庭的なパエリアだ、さあ、どうぞと岡田が振る舞う。本間は居心地悪そうにしている。

f:id:guangtailang:20190327084157p:plain映画の前半から示されているが、岡田は蜷川の義父にして愛人、蜷川の表現で云えば「爛れた関係」にある。この名優がまた実にいやらしいパトロンの雰囲気を醸し出している。

f:id:guangtailang:20190327084224p:plain別荘近くの食堂。女店主が白子を勧め、今晩精がついちゃうわよと下品に笑うと、育ちの良い蜷川は機嫌を悪くして店を出てしまう。

f:id:guangtailang:20190327084249p:plain渋谷辺りの蜷川の住む瀟洒なマンション。

f:id:guangtailang:20190327084337p:plain益富と永島の暮らす木造アパート。

f:id:guangtailang:20190327084412p:plainこの後はヴァイオレンスな展開がつづく。蜷川の友人のアメフトをやっている大学生らは本間を小馬鹿にしており、彼らが本間の働く夜の店を訪れたことが直接的な引鉄となって惨劇に至る。この一連のシークエンスは観る者を選ぶだろう。大学生らの傲岸不遜な態度は愚劣だが、さりとて本間もぼったくりバーで逃げた客をボコボコにしたり岡田を強請った上に殴り倒しており、ぎらつくナイフのような本間に魅かれつつ蜷川は未必の故意のように彼を奈落へと誘う。終局、走るのが日課の本間が傷ついた躰でふらふら走っていると駐まっていたパトカーが動き出し、彼の前方に廻り込む。刑事がふたり降車し、本間が目の前まで来たところでストップモーション。終。

f:id:guangtailang:20190327113746p:plain蛇足ながら、蜷川有紀の現在の夫は猪瀬直樹である。