川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

勿来

15日夜。日活ロマンポルノ 、『ひと夏の秘密』(1979・監督 武田一成)をFANZA動画で。これはミステリ仕立てで、10分に1回濡れ場があればアクションだろうがサスペンスだろうがコメディだろうがジャンル不問だったロマンポルノの佳作の1本。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】 

冒頭、原悦子が「チチキトク」の報を受けて故郷の勿来に向かう常磐線車内が映る。外には明るく光る太平洋。観ているうちにわかるのだが、この映画で勿来はかなり曰く付きの土地として描かれており、それでも爽やかな夏の日の勿来駅が出てくる。

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勿来の海岸風景に重なって流れる「海・アゲイン」は歌詞はちょっと変な感じだが、調子は明るい歌謡曲である。

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父の病室から窓外を眺めやり、この海もモーターボートなんて走るようになったのねと呟く原。彼女は家出から6年ぶりに戻ってきたが、父の実子ではなく11歳の時に貰われてきたのだ。実娘はやはり11歳の時に牛の骨が腹に刺さって死んでいた。そしてこの父は厳格な警官として知られていたが、実娘の命日に原を拳銃で脅して犯そうとした際、銃が暴発して弾を紛失し、警官を辞職したどうしようもない男である。

f:id:guangtailang:20190316101738p:plain さっきのモーターボートに乗っていたのは錆堂連と渡辺とく子のふたりで、錆堂は昔、原の命を救ったとか云う。かなりのお調子者である。このふたりはふたりで妙なことを企んでいるがここでは割愛する。海沿いで腰掛ける渡辺。

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東京にいた時、料亭で働いていて得意だったのよ、はい、どうぞと云い逆立ちする原。それをみつめる彼女の実家にバイトで来ている田山涼成。現在は禿頭のイメージが強いがこの時はフサフサで痩身の好青年。

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好青年とみせて実のところ東京にかつての教え子で恋人の萩原友絵がおり、倦怠の日々の中で交接している。しかし田山の感情は原に動いており、勿来に戻ると云うと萩原にそれを見透かされてしまう。そして熱帯魚という名の水族館みたいな喫茶店で、先生が人殺しだってこと云いますよと脅される。これはさっきの牛の骨に関わっていて、昔勿来の海沿いに屠殺場がありそこら辺に牛の骨がたくさん散らばっていた。その中の1本を田山が供養の意味で垂直にして埋めたら、その上で男の実娘が転んでしまい腹に突き刺さったというのだ(実はこれは田山の思い込みなのだが)。

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雑踏で、こんなのあたし絶対許さないから、先生のこと呪ってあげると軽快に去ってゆく萩原が怖い。

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この萩原友絵という人は検索するとこの映画しかヒットしない。萩原は夏のお嬢さんのような装いで男の病室にあらわれ、実娘を殺したのは田山だと聞かせるとまたも軽快に去ってゆく。その後公衆電話から田山に秘密をバラしたことを伝える。動揺し憤怒する男は病軀をおして警官の制服を身に付け、射的の空気銃の弾を殺傷能力を持つように改造し、原とともに駆けつけた田山が実娘の件を認めるや左目にそれを撃ち込むだろう。

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男は病魔に斃れ、田山は片目を失明した。しかしそのことによって却って物事がはっきりみえるようになった気がすると彼は呟く。サングラスをかけて原と高台に上ると、原が昔の屠殺場の話を始める。屠殺場から一本の鉄管が海に伸びており、床に溜まった血をそこから流していた。幼い原が海をみているとぽつんと赤い花が咲いたようで、みる間に海面の赤の面積が広がる。その幻影を追うように現在彼らが眺めている海が赤く染まる。原と田山はこれから一緒に生きてゆく。完。

ところで、勿来は「来る勿れ」と読むことができ、不思議な地名だ。「勿(なかれ・してはならない)」の字は中文でも禁止事項に「请勿触摸(お手を触れないで下さい)」「请勿入内(中に入らないで下さい)」などと書いてよく使う。Wikipediaに勿来の由来が載っていたが、それとともにおもしろいと思ったのが、「勿来駅前が、東京と仙台からの等距離地点で、双方からの距離は177kmである。茨城県との境界には断崖が立っており、断崖の北側に平地が広がっている。」という記述。この断崖がさっきの高台だろう。

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