『江戸川乱歩の美女シリーズ5 江戸川乱歩「暗黒星」より 黒水仙の美女』を観直す。本作は1978年10月14日に、テレビ朝日系「土曜ワイド劇場」枠で放映された。去年の10月に亡くなられた江波杏子さんの終盤の怪演が忘れがたいのだが、ドラマとしてもシリーズ屈指の作だと思う。個人的には他に、『シリーズ8 江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女』(1979.4.14)、『シリーズ10 江戸川乱歩の「地獄の道化師」 白い乳房の美女』(1981.10.3)、『シリーズ17 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」 天国と地獄の美女』(1982.1.2 正月!)を挙げたい気がするが。【以下、ネタバレあり】
ダニエル・シュミットの映画の人物のような江波さん。
呪われた伊志田家には主(あるじ)の彫刻したグロテスクな像が何体も飾られている。この屋敷の中で夜な夜な悪魔の笑い声が響き、黒い影がアクロバティックに宙を舞う。キッチュの極みである。
美女シリーズのフォントがいい、という話は結構ある。
どこかで読んだが、明智小五郎のこのスーツは、すべて天知茂氏の自前だったという。70年代ファッションとして注目に値するが、これほどニヒルな大人の男は当時でも珍しかったろうから、メインストリームではなし、あまり参考にはならない。それでも部分的に真似するという方途はある。
伊志田家の看護婦としての江波さん。36くらいで演じている。
美貌に奸計を持ちかけられても洒落た警句でかわす明智探偵。女優は泉じゅん。ロマンポルノで有名な人。ご存知ない方のために云っておくと、「江戸川乱歩の美女シリーズ」では毎回、入浴する裸の女が出てくるシーンがあり、多くの場合、殺されたりするのだが、その女たちをロマンポルノの女優が担っていた。「黒水仙の女」の中でも泉じゅんが浴室で無残な殺され方をする。昭和のテレビはよくこんなの映してたな。
ジュディ・オングも美しい。荒井注はほんと適役だったなあ。波越警部たって、他が思い浮かばない。Wikipediaで興味深い荒井注の経歴として、「…立教大学文学部宗教学科中退後、二松學舍大学文学部国文学科卒業。卒業後は脚本家を目指しながら、クレージーウエストのバンドマンを務めていた。二松學舍大学卒業後に教師を務めた事があるとの文献もあるが、真偽は不明である。ただし、教員免許を持っていたのは事実である。芥川龍之介や太宰治を愛読する文学青年という一面ももっていた。」
明智の推理により、犯人であることを自供したあとも不敵な笑みを浮かべる。
これまたダニエル・シュミットの映画の人物のようだ。追い詰められても少しも動ずることなく、「…悪魔のような、悪魔のような女にふさわしいダイビングをするわ。 音楽!」と叫び、自らの最も輝かしき時代の幻影を思い描く。この一連のエンディングは特筆に値する。
江波杏子さん、天知茂氏、荒井注氏はすでに鬼籍に入(い)られているが、映像が、ドラマがこうして残り、というか変な云い方だが、今も屹立し、観る私を鼓舞してくれる。『津軽じょんがら節』(1973・斎藤耕一)も観なければ。