川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

山房のバショウ

4日、曇り。蒲田に用事のあるHさんが早々に出かけ、私はパジャマのまま本棚の整理。棚の違う場所からまたぞろダブり本があらわれ、苦笑いする。午後、簡単な麺の昼飯を済ませ珈琲を飲んでいると、ようやっと昨日の疲労が抜けてきたように感じ、終日蟄居するのも退屈なので、近場でどこか行こうかしらんと思案、ふと先日買った『硝子戸の中』の文庫本が目に留まった。去年オープンしたという漱石山房記念館なら早稲田だから1時間もかからないだろう。私は裸でシャワーを浴び、外出の支度を始めた。

大江戸線牛込柳町で降り、北に向かって幹線道路を進むと、途中に草間彌生美術館がある。草間彌生はみるべき価値があると思うし、ここの館長は大学時代謦咳に接した建畠晢氏なので興味はあるのだが、観覧が日時指定の予約制というのが面倒で二の足を踏んでいる。

さて、幹線道路を左に折れて緩い坂を上っていくと、鉄と硝子の近代的な建物がみえてくる。角のところに漱石の胸像があり、裏が公園になっている。漱石山房、彼が晩年の9年を過ごした土地にこの記念館は建つ(山房は昭和20年5月25日の空襲で焼失した)。1階入口の左右にブックカフェがあり、正面には漱石等身大パネルが立っている。身長158.8cm、体重53.3kg。現代でいえば成人女性の平均体格ではなかろうか。英国留学で強度の神経衰弱になったというが、当時の英国人男子にまず体格で圧倒されたことだろう。ちなみに漱石の帰国後の標準朝食は、紅茶とトースト、エッグだったらしい。ジャムを舐め過ぎて医者に叱られるという逸話も持っている。

導入展示のグラフィックパネルをざっと眺めたあと、受付で300円を支払い、漱石山房再現展示室に足を踏み入れる。壁の展示をみていると、いつの間にやら部屋の隅に青いジャンパーを着た60絡みのおっさんがいる。監視員か何かだろうか、漱石と違い180cm近い長身の白髪頭で、ちょっと鬱陶しい。しばらく経って、おもむろに振り向き、「この書斎は写真オーケーなんですよね?」と、すでに確認済みの事項を念のため問うた。「ええ、資料的な展示とか、そういうの以外は、この辺りも撮って頂いていいです」と、彼は再現されたヴェランダ式回廊を示しながら答えた。会話してみると威圧感のない、むしろ柔和な人だった。

硝子戸の中』に出てくる三方が硝子窓の書斎。板張りにペルシャ絨毯が敷いてある。f:id:guangtailang:20181104222639j:imagef:id:guangtailang:20181104222649j:imageバショウの葉がみえるヴェランダ式回廊。f:id:guangtailang:20181104222659j:imageバショウの葉がみえるスロープ式エントランス。f:id:guangtailang:20181104222720j:plainバショウの葉がみえる当時の漱石山房f:id:guangtailang:20181104222809j:image吹き抜けの漱石山房再現展示室。2階より。f:id:guangtailang:20181104222730j:image鉄と硝子の近代的な新宿区立漱石山房記念館。f:id:guangtailang:20181104222740j:image記念館より裏の公園へ抜ける道。f:id:guangtailang:20181104222846j:image胸像。f:id:guangtailang:20181104222901j:image公園の案内板より。f:id:guangtailang:20181104222911j:image