29日昼過ぎに長岡到着。駅ビルの中でへぎそばを食べようとしたら、店の外まで列をつくっている。そんなら先にクルマを借りて、いっそ小千谷の店へ行ってしまおう。向こうに着く頃には昼飯の時間を少しはずれているだろう。と思ったら、甘かった。午後1時半に着いたら、入口のところに人が溜まっている。ウェイティングリストと呼ばれるらしい紙を見ると、すでに10組以上が待っている。しかしここまで来てしまったのだから、やはり記入するしかない。結局30分待ったのだが、座っていた椅子の背後に小千谷談判のポスターが貼ってあった。
背丈が178cmはありそうな痩身の中年女性がやはり順番を待っていたのだが、椅子に腰かけた女の老人が向かいの孫に声をかけて、痩身女性を示している。と、こんにちは、と痩身女性が老人の孫に挨拶する。孫はちょっと照れている。知ってるわよね、と痩身女性。推測すると、痩身女性が小学校の先生で、孫は同じ学校の生徒ということのようだ。休日、飲食店に昼飯を食べにきて、こういう出会いをしてしまうのが地方都市らしいなと思った。
そこから山古志地域の金倉山展望台へ向かう。すれ違いもままならぬ山のくねくね道を走るのだが、しばらくすると助手席のHさんが気分が悪いと訴え始め、きっと天ぷらを食べてすぐにこんな道を走るからだ、と言う。仕方なく、展望台まで行かずに引き返す。途中、景色のひらけたところでクルマを停めて降りたのだが、あとから名古屋ナンバーのクルマが乱暴な感じでやってきて、男がドアを開け放したまま降りると、つづいてこの場所には到底不釣り合いな、とんでもない高さのハイヒールの派手な女が助手席から出てきた。
有名な山古志の棚田。
Hさんの体調を考えて、早めに宿に入る。フロントの女性が「お部屋をグレードアップさせて頂きました」と言う。そもそも、こちらの旅館で普通に露天風呂付の部屋に泊まるといいお値段するのだが、ご覧の通り足場をかけての外装工事中ということで、割安プランで予約できた。それが現地に着いてみると、さらに部屋がグレードアップされた。
部屋に入ると、左手に12.5畳の和室。右手奥に進むと、ヒノキ風呂があり、その隣りに蓋をされた露天風呂があり、とろとろと湯が流れている。風呂が2つ。ひょっとして、この旅館で最上級の部屋ではあるまいか。あとで調べると、やはりそうだった。足場が邪魔しているといっても休日だから仕事は休みだし、里山の空気は自由に吸えるわけだ。十分に価値があると思った。そして、2年か8年に1度だろう、こんな豪勢な部屋に泊まれるのは、とも思った。長岡や飯田といった街はやはりぼくの味方なのだと勝手な考えも浮かんだ。飯田の旅館では泊まった晩に月下美人が咲いた。