東京から1泊2日でぺろっと行って帰ってこられる伊豆伊東へ。スーパービュー踊り子号のグリーン車に初めて乗る。これが予想以上に快適で、Hさんもにっこり。なにせシートが座り心地良く、前のスペースに余裕がある。服務員が回ってきて、おしぼりと飲み物のサービスもある。われわれは2号車に乗ったが、事前情報で空いているとあった1号車1階のラウンジは左側に海が見える頃に行ったためか、混んでいた。
サンハトヤ13階からの眺め。宇佐美海岸を臨む。
個人的な思い入れ。『江戸川乱歩の美女シリーズ』第8作「悪魔のような美女」(1979)で黒蜥蜴こと緑川夫人(小川真由美)が和服で降りてくる艶めかしい螺旋階段。撮影当時から39年経っても同じ場所に同じように存在する。照明の意匠もモダンにしてキッチュな妖しいあの時代のまま。
大船に松竹の撮影所があった関係で、件の『美女シリーズ』のロケ地に箱根や伊豆半島がよく選ばれた。伊東にあるシャボテン公園(1959年開園)も城ヶ崎海岸の門脇吊橋も、私のなかでは『美女シリーズ』の記憶と分かち難く結びついている。この度初めて足を踏み入れて、どちらも当時のままではないだろうが、私には懐かしい。
この日とにかく風が強く、公園の高台から富士山がくっきり見えたが、髪をむちゃくちゃになぶられた。シャボテン温室に入っても外で風が轟轟唸っており、今にも屋根をさらっていきそうだった。大室山のリフトは無論運転を見合わせていた。高原から海岸に下りると風はましになり、溶岩石の上に立って大島の島影を眺められた。
翌朝は雲の多い寒い日で、午前9時過ぎにはクルマを出して、スコリア丘に向かった。ちなみに有名な山焼きは毎年2月の第2日曜日にやっているらしいが、今年は降雪など天候の影響でこの日18日にもまだ行われず、25日の予定だそうだ。
山頂に着くと吹きさらしで当然麓よりさらに寒く、Hさんがぶーぶー言い始めた。それでこちらも気分が悪くなり、じゃあ、もう下りるかと滞在時間わずか10分ほどで下りのリフトに乗った。車内のヒーターで指先を温めながらまだ寒さへの不満を口にするので、それなら伊東の町に行こう、それで飯食って熱いコーヒーでも飲もう。Hさんはコーヒーとお汁粉を注文した。
東海館にもぺろっと寄って、まだ帰りの電車まで時間があるので少しドライブする。
駅に到着して早々、レンタカー店に向かうためロータリーを突っ切ろうとした時、右足首をぐねった。顔をゆがめてよろめく私を見てHさんがエッと声を上げる。後ろを振り返るとアスファルトに横に切れ目が走り、数センチの段差が生じていた。こんな程度でおれはぐねるのか、と痛みに加えて老いの情けなさがそくそくと身に迫ってきた。幸い、その後の運転や歩行に支障は無かったが、宿で靴下を脱いで見ると、踝の下が青紫色に腫れていた。
宇佐美海岸からサンハトヤを臨む。熱海と伊東のあいだに位置する控えめな宇佐美。水はきれいだ。