川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

鼻を摘まれても分からない

f:id:guangtailang:20170912171019j:plainf:id:guangtailang:20170912171118j:plainf:id:guangtailang:20170912173604j:plainf:id:guangtailang:20170912171217j:plain2016年2月11日、神奈川県足柄上郡山北町。その頃ちょっと話題になっていたユーシン渓谷へ。天気も良かったし独りで家にいるのもなんなので、行ったのだった。丹沢の西、玄倉川沿いにある東京都心から近い秘境である。

その前に黒沢清『岸辺の旅』(2015)で使われたJR御殿場線谷峨駅に寄った。映画では幽霊となった夫浅野忠信と妻深津絵里が降りてくる。

ゲートの手前にクルマを駐車して、冬の渓谷を歩き始める。ここから先は一般車輛は通行できない。空気は澄んでおり足取りは軽かったが、日陰は氷が張っていた。しばらく歩くと向こうにトンネルが見えてきた。入ってみると内部は一切の灯りの無い真っ暗闇。鼻を摘まれても分からないというやつだ。この軽装備で足りるかな、とふと考えた。自分の足が砂利を踏む音だけが聞こえる。「はっ!」と叫ぶとぼわんと反響した。スマホの懐中電灯で前方を照らしながら進み、出口の光が見えてくると安堵した。

このあと、真っ暗闇のトンネルをいくつも潜り抜けることになる。一度、ダム関係者か何かの車輛が煌々とライトを照らしながら迫ってきて、トンネルの真ん中で行き違った。ユーシンブルーを見に来たのだったが、水量が少なく、日没が近づき、途中で引き返した。都会にはない真の暗闇を体験したことの方が貴重な一日だった。