川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

夜よ、濡らして

13日夜。デスクに向かい三浦哲郎おろおろ草紙』(講談社文芸文庫)を読んでいると、外で男女の諍う声がする。女が、あんたは自分のことしか考えてないのよと言い、それに対して男がもごもご返している。障子を少し開き、前面の狭隘道路を覗いてみると、女はしゃがみ込み、その後ろで男が所在なげにぶらぶらしている。想像したよりも、若い感じの風体だった。私は障子を閉め、つづきを読み始めた。その後、女の声はほとんど聞こえてこず、男の方はヒートアップしてきたのか、怒声を発している。女がやさぐれて、しゃがんだままその場を動かないのか。20分ほど経つと、声は聞こえなくなった。

今朝、出勤しようと表の自転車に近づくと、サンドウィッチの包装紙が捨てられている。さらにはタバコの吸い殻も数本、家の前に落ちていた。

f:id:guangtailang:20200514113708j:imagef:id:guangtailang:20200514090100j:image老虎も怒るです。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

f:id:guangtailang:20200514083638p:plain読書に疲れ、風祭ゆきさんが観たくなって、『愛欲生活 夜よ、濡らして』(1981・西村昭五郎)。ロマンポルノはほんとうにさまざまあるが、これは痛ましい話で、女の裸が出てくるからといって、少しも下半身の怒張など誘発しはしない。暗鬱なトーンで物語は進む。でも、そんなことは問題じゃない。風祭さんは娼婦に身を沈めた役だが、その美麗さに目を奪われる。また、衣服も派手であると同時に可憐なのだが、それは風祭さんが着こなしているからかもしれない。元ガソリンスタンド店員というのがギャップだ。

f:id:guangtailang:20200514083723p:plain夜の喫茶店でポン引きの丹古母鬼馬二の隣りに座る風祭さん。向かいの禿げ頭は客。この人、『少女暴行事件 赤い靴』にも同じような客役で出ていたな。

f:id:guangtailang:20200514083749p:plain風祭さんとヤクザのヒモが住む建物。このヤクザを演じるのが中田譲治さん。現在は声優やナレーターとしての活動が有名らしいが、ここでは残忍で、時々優しいヤクザを見事に演じている。やはり、声に色気がある。

f:id:guangtailang:20200514083824p:plainおれはお粥が好きなんだよ、お粥の湯気がさ、だからこう湯気を吸い込みながら食べるんだ、さあ、おまえも食えよ、とか言うところも不気味だ。なぜなら、この前に彼は彼女の可愛がっていた猫のコロを殺して、ポリバケツに捨てているのだから。友人からコロの所在を教えてもらい、その遺骸を抱きかかえながら街路を彷徨う風祭さん。この場面がまた痛ましい。もう煽情的な要素をどんどん減殺しながら終局に向かう映画なのだった。

f:id:guangtailang:20200514090136j:image鷄の照焼弁当、シーザーサラダ。