川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

3万円で

20日夜。宮井えりなさんが見たくなってしまい、『女教師 汚れた噂』(1979・加藤彰)をFANZA動画で。「女教師もの」なので、学園を舞台に高校生が出てきてわいわいやるのかと思いきや、がらんとした冬休みの学校で教師の素振りも見せない、ひとりの女の転生をしっとり描いた静謐な物語だった。音楽もサクソフォーンがわななくのみで、他に余分なものはない。その音を聴きながら、女教師の口を衝く言葉に、寂寥感がそくそくと迫ってくるのを感じた。【以下、ネタバレあり】

f:id:guangtailang:20200420203909p:plain生徒の机に貼ってある女教師のシール。なかなかユーモラス。

f:id:guangtailang:20200420203939p:plain女教師は夜になると都会で男を漁る。といって金銭が目当てでは少しもない。だから、夜明けのバス停で3万円あげるからあたしを買わないかと男に持ちかける。女教師は窓から水路の見下ろせる部屋に住み、生活はかなり質素な様子だ。

f:id:guangtailang:20200420204019p:plain校長に呼び出された女教師は、良からぬ噂が立っていると注意される。それというのが、女教師が夜な夜な街で男を漁り、奔放な性生活を楽しんでいるさまを描写した劇画が校内に出回っているということだった。校長は女教師の過去の素行を調べたという。まったく問題ないようだが、ひとつだけ、以前にあなたは自殺未遂を起こしたことがある。それはどうしたわけなんだね。その答えは聞けずに画面は切り替わる。

f:id:guangtailang:20200420204332p:plain女教師は女子生徒に劇画の内容が事実かどうか詰問されると、あっさりほんとうのことだと認める。教師という職業について、ただ現在そうゆう立場にあるというだけで、少しの顧慮や未練もないように見える。実際、教師は自分からもっとも遠い仕事だというような言葉も吐く。気色の悪い生物教師のコーヒーの誘いに乗り、実験室のような部屋を訪れる。そこで彼のこれまた気色の悪い話を聞かされるが、女教師に動じる気配はない。

f:id:guangtailang:20200420204405p:plainストーカーと化したゆきずりの男との交流、女子生徒が躰を売って稼いだ3万円を持って男子生徒が女教師の部屋を訪れるサブエピソードなどが描かれるが、物語の肝は女教師と叔母の関係だろう。なぜ、女教師が男漁りをするようになったのか、それが育ての親であるこの叔母に起因しているのだから。少しも年をとらず、若いつばめをとっかえひっかえする叔母の淫蕩な血が自分にも流れており、そのことを逃れようのない桎梏、もっと言えば宿命と感じてきたのが、叔母が狂死したことにより、血の繋がりが無いことが発覚する。女教師は男女の性交自体にさほどの価値を見出してはいない、それはあくまでブレーキの利かない快楽行為として彼女を呪縛していたものだ。だから、気色の悪い生物教師とも交接してしまう(マウスや動物の剝製を女教師の肢体に這わせる)のだったが、今や、ホテルの部屋を出てゆく男を呼び止め、ベッドの上から自分は「糸の切れた凧」だと言う。

f:id:guangtailang:20200420204500p:plainアイスホッケー部の練習場にあらわれる女教師。夜の街でもそうだったくすんだゴールドのコートを纏っている。男子生徒と女子生徒が親密そうに話している。

f:id:guangtailang:20200421121920p:plainタクシーを呼び止め、3万円で行けるところまで行って、と言う。饒舌な運転手がぺらぺら喋り、お客さんはブティックかなんかやってるんですかと訊かれると、まあそんなようなものねと答える。そうして目を瞑る。どこに向かっているかなんて興味がない、ただどこかに進むだけ。彼女はもう女教師でもないだろう。

※現代では、3万円でだいたい100km移動可能と言われているのだが、当時はもっと長い距離だったろうか。