ああ、目が痒い洟が出る。『風の歌を聴け』(1981・大森一樹)をDVDで。2回目。原作はとうの昔に読んだのでほとんど覚えていないが、映画とそれを比べようとか思わない。ただ、昭和50年代半ばの神戸というと、幼い私や弟が両親に連れられてしょっちゅう祖母の家に遊びに行っていたあの時代だと思うのだ(いや、あの頃は祖父もまだ生きていた)。【以下、役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】
舞子の移情閣。無論、明石海峡大橋はまだ無い。
真行寺君枝。本名同じ。映るすべての神戸が震災の前だ。
と、小林薫。20代前半と30くらい。このあいだ根津甚八(の妻)の本を読んだが、状況劇場では根津のあと、小林が頭角をあらわしてきたように書かれていたな。個人的に若かりし頃の根津や小林の佇まいが好きである。
いろいろと実験的な試みをしている映画なんだとあらためて思ったが、現在から振り返ればそれら技術がとんがっているというより微笑ましいという風に映るかも知れない。
劇中で神戸まつり事件(1976)がかなり取り上げられているのを思い出した。冒頭の電話ボックスの場面からしてそうだったんだな。だから年代設定は1970年代半ば。
アイビールックの小林。このあと、鼠ことヒカシューの巻上公一と王子動物園へ。ヂャケットを脱いでネクタイを緩め、シャツを腕まくりしながら園内をそぞろ歩く。こうゆう男同士で動物園に行くというのはほんとうにいいですね。私もやったことがあります。その時はガラス越しにサイに大便を噴射されました。
雨の日。教会へフランス語を習いにいった真行寺をフィアットに迎える。このふたりは映画の空気に非常にはまっていると思う。おぼこいところがないというか、年齢のわりに妙に達観したような風情。それが演技のみならず、そもそもの佇まいとしてある。