川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

Nという女

忘年会から帰って、裸でシャワーを浴び、ベッドに仰臥すると、すでに横になっていたHさんがひとつ話をしてあげましょうと言う。どんな話だいと私。彼女はおもむろに始める。

Hさんの息子ディンディンはすでにシャオレイと婚約し、婚纱照も撮っている。来年3月中旬には盛大な結婚式も準備されており、私も参加する予定だ。そのディンディンが以前つきあっていた女性にNというのがいる。私は会ったことがないが、Hさんの話を聞いていて、この女はちょっと芳しくないなと当初から思っていた。照片で見ると、Nは女優といっても通るくらいの美貌で、个子も165くらいあり、身材苗条である。だが、己の美麗さを十分わかっている女性特有の傲慢さ、愛嬌のなさが感じられた。交際中、ディンディンも相当苦労したようだが、私が聞いて個人的に腹立たしかったのは、或る年のクリスマスに私がHさんにプレゼントしたハンドバッグを、Nが無断で使用したことだった。Hさんが大陸にバッグを持って帰り、また近いうち向こうで使うので置いたまま一旦東京に戻ってきた。そのわずかな期間に、NはHさんの部屋に入り込み、クローゼットからバッグを取り出し、それを持って毎日のように外出していた。さすがにある時、ディンディンが見咎めた。Hさんの妹もそのことを知り、微信で連絡してきた。怒るHさんの傍らで、「こいつぁ、泥棒猫だな」と私は言い、ディンディンのような心根の優しい男では翻弄されてしまうだろうとその時強く感じた。

さて、前置きが長くなったが、ここからがHさんの今回の話だ。Hさんの妹の娘にルルがいる。そのルルが一時つきあっていた男性、彼の名前も知らないが、妙に粋がりたがるしょうもない男だった。私も2度会ったことがある。その男の姐姐がしばらく前に離婚したのだという。夫妻のあいだには8歳になる子供がいるが、老公は若い女に目が眩み、そちらに奔った。ほどなくして女は妊娠する。その女がNだった。老公は事業に成功し裕福だったので、金でかたをつけて強引に妻と別れた。

诸暨といえば100万城市なのだが、その中のごく限られた範囲で、万国どこにでも転がっているような凡庸な不貞行為が行われたわけだが、渦中の女がNというのはいかにもありそうな話だった。Hさんは妹から聞いたのだが、名前も風体もNと一致しているので、間違いのないところだろう。男女の身長差を気にする中国人らしく、ディンディンは183あるのに、不貞の男は170にも満たないようだとHさんが呟くので、金だ、金。Nのような女は金に目が眩み、不貞の男はNの美貌に目が眩んだ。お互い奈落に向かっているんじゃないかと日本語で言った。ディンディンはNと別れてほんとうに幸いだった。われわれはNとはもう何の関係も無い。ただ、男の元妻や子供は可哀想だし、生まれてくる子供はさらに気の毒だ。Nと男にちゃんと育てる気があるというのか。否。ふたりの亲戚や関係者はぎゃーぎゃー騒いでいることだろうと凡庸なことを言い合い、寝室の電灯を消した。 

※ちなみにディンディンと会うたび、広島東洋カープ鈴木誠也選手を思い出すので、どことなく似ているのだろう。