川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

海藻のように

夢をみた。川沿いのマンションに僕と弟とふたりで住んでいる。内装・設備は質素で、1970年代後半か80年代初頭みたいな趣きだ。われわれの年齢もどうやら若い。20代後半のよう。ベランダから見える川は明らかに隅田川で、眺められる高さと角度が、かつてほんとうに住んでいた隅田川沿いのマンションに酷似している。季節は夏のようで、僕も弟もTシャツ1枚の薄着、ベランダの窓は開け放たれており、強い陽光が差し込むからか部屋の照明は点けておらずやや薄暗い。川の方で誰かがマイクで熱唱している。バンドが演奏しているようなにぎやかな音も聞こえる。ベランダに出て端まで行きそちらを見ると、川面にテニスコート2面分くらいの平らな浮きが設置され、そこでたしかにバンドが演奏して、私服のヴォーカルが唱っている。おかしいのは観客が皆、川の下、つまり水中にうずくまってそれを聴いている。ざっと100人くらいいるだろうか、特にウェットスーツとかボンベも装着しておらず、普段着で整然と並んで体育座りしているようなあんばいだ。彼ら彼女らの髪が海藻のように揺らいでいる。川の水の透明度が異常に高く、川底は浅いようでマンションのベランダからそれらが鮮明に見下ろせるのだ。部屋にいた弟がベランダに出てきて僕の横に来ると、「ああやって、水の中で何の歌が唱われているか当ててるんだ」と言う。僕は初めて見る光景だったが、どうやら弟はそうじゃないらしい。壮大なゲームの現場のようなのだ。しばらく眺めているが、特に変化もないのでふたりとも部屋に戻る。すると、エプロンをした細身のおばさんが立っている。この人も僕は初めて見る。「内職でお世話になっている◯◯さん」と弟が紹介し、僕は挨拶をする。彼女もにこやかに挨拶を返してくれる。「そうだ、あれも◯◯さんがつくってくれたんだ」と弟が玄関の方にある台所に向かうので、僕もつづく。彼が台所の反対側の吊り棚から大きな瓶を下ろそうとすると、それが落下する。中のおが屑が散乱するが、瓶はプラスチック製だったようで割れていない。中身を探ると、おが屑にまみれているが、精巧につくられたさまざまな野菜の模型のようなものが出てくる。こんなものも初めて見た。弟は何でも知っているのに、僕は何にも知らないんだな。ずっと弟が住んでいる部屋に僕が最近越してきたのかなあなどと考えている。