川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

横須賀男狩り

f:id:guangtailang:20190726083513p:plain日活ロマンポルノ、『横須賀男狩り 少女・悦楽』(1977・監督 藤田敏八)をDVDで。2度目。70年代の横須賀が舞台で、舶来的な雰囲気がいいんですね。海がそんなに映るわけじゃないんですが、米兵がいたり、彼ら向けのディスコやバーがあったり、軍艦が鎮座していたり。洋画ポルノをかける映画館も出てきます。日本の土着的・家族的な因習を厭うたビンパチ監督ですから、こうゆう街は好きでしょう。【以下、ネタバレあり。役名では呼ばず、俳優の名で呼んでいます】

冒頭、レコードプレーヤーが気だるげなロックを鳴らし、タイトルがあらわれる。カバー越しに音にのる少女ふたり。大野かおりと中川ジュンはいずれも新人。不良というほどでもなく、ちょっと背伸びした高校生といった趣き。髪型が現代の基準だともっさりしているのだが、当時はこんなだったか。ちなみに大野、中川ともに1977年の映画しか出ていないようだ。

f:id:guangtailang:20190726083554p:plain大野が家に電話するが、誰も出ない。大野の暮らす家には姉折口亜矢とその夫矢崎滋がいるはずなのに。実はその頃、家に強盗が押し入り、矢崎は縄で縛られ、折口は強姦されていた。ストッキング強盗というのは最近あまり聞かないが、高橋明が演じる。矢崎はいかにも小市民といった風情で意気地がなく、妻が野獣のような高橋に犯されているあいだ、苦悶の表情を浮かべながら見ているだけだ。縛られているとはいえ、畳に包丁が突き立てられたままだし、高橋は拳銃を手放しているし、反撃の機会はあるだろうと思うのだが、矢崎の内部からはそのような意志が立ち上がってこない。蛇足ながら矢崎は東大文学部英文科卒で、父親は言語学者である。監督の藤田も東大文学部卒で、こちらは仏文である。強盗が去ったあと、夫は妻の激しく感じていたことを詰り、「奴は和姦だと言ったんだぞ。世間や会社にどう申し開きするんだ」と叫ぶ。

f:id:guangtailang:20190726083631p:plain何事もなかったように振る舞う朝。普通の民家なのだが、なにかしら洒落ている。

f:id:guangtailang:20190726224150p:plain世間や会社に縛られず、奇妙な絵描きを生業としている蟹江敬三。念のため役名を書いておくと、ミッキー徳田という。英語を喋り、米兵たちの淫猥なリクエストに応じて描く。それにしても蟹江にしろ高橋にしろ矢崎にしろ、実に味がある。

f:id:guangtailang:20190726083656p:plain中川はまあ整った顔立ち、大野は垢抜けない。前半は水商売の母を持つ中川がトニー和田(役名ジミー・カトー)とぺちゃぺちゃやってリードしているかのようだが、終盤は大野が完全に主導権を握り、それが横須賀男狩りなのである。

f:id:guangtailang:20190726083745p:plain野獣のような高橋がまた押し入る。折口はそれに少し期待していたようですらある。2階では大野が寝ているので、音を立てないようにと懇願する矢崎。だが結局、交接の最中に金属のヤジロベエが落下し、茶碗だか急須を割って、その音で大野が下りてくる。高橋はもう来ないと言い残し立ち去る。その後、折口と矢崎は別れ、大野はそのことによって高校を中退することになり、高橋への復讐を誓う。空っぽになった民家の内部が映される。

f:id:guangtailang:20190726083818p:plainディスコに勤め始めた大野は、ついに高橋と遭遇する。この頃、大野は化粧をし髪型も整え、大人びている。高橋が便所に立つあいだ、ふたりは策を練り、しかしそれもどうも緩慢な感じで、強引な高橋がドライブしようとふたりを自分のクルマに乗せる。職業を訊かれ弁護士などと嘯く高橋だがそんなわけがなく、一体何者なのだろう。ありていに言えば犯罪者である。拳銃を所持していたり得体の知れない男だ。おじさんの家に連れてってというふたりに、おれの定宿だとラブホテルにクルマを突っ込む。入室するとボンデージ風の衣装を纏ったマネキンが置いてあったり、鞭やら仮面やらが飾られており、ここはそういう部屋なのだ。いきなり襲いかかる高橋にふたりは抵抗するが、中川は張り倒されて気絶する。大野はベッドで組み敷かれ処女を奪われる。しかし、天井を見つめる大野の瞳は虚ろというよりむしろ強く輝き、何かを決心したようにみえる。中川が心配になり高橋が抱き起そうとする背後で大野が椅子を振り上げ、後頭部に叩きつける。高橋は呻き、額に血液が流れ落ちる。ここから最後の10分、少女たちの横須賀男狩りが始まる。大野の指示で男を縄でぐるぐる巻きにすると、男の躰めがけ鞭を雨あられに打ち据える。その度男は悲鳴を上げる。

f:id:guangtailang:20190726083842p:plainさらには男の頭部の傷口に鞭の柄を捩じ込み、血液が噴水のように上がる。参ったと血まみれの男。血糊とわかっていてもこれはえぐい。

f:id:guangtailang:20190726083917p:plain犬のように這いつくばった男に足裏を舐めさせる大野。つづいて中川の足裏も舐めさせる。屈服のしるしとして。大野が男の財布から運転免許証を取り出し、身許も明らかとなる。

f:id:guangtailang:20190726084003p:plainふたりは男のクルマを奪い、途中でダッシュボードの中から拳銃を見つけると、海岸沿いに停める。夕景が美しい。中川は男の仕返しを怖れるが、大野はあたしは逃げないよと力強く言う。突端に至ると乗り捨て、大野がクルマめがけ拳銃を連射する。すると引火して激しく炎が噴き出す。黒煙が上り、立ち尽くす大野の太腿をつつーと一筋血液が流れる。

f:id:guangtailang:20190726084048p:plain