川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

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f:id:guangtailang:20190711220759j:imageエスカレーターを降りた先の階段で老人が立ち止まって息を整えているので、鶴岡抄太郎は脇を通り抜けていった。すると老人のちっという舌打ちがかすかに聞こえた。自分の方が先だったのに若造が順番を追い越し入店するのかと思ったのだろう。しかし鶴岡にも考えがあって、平日のこの時間(もう夜の9時に近い)、大箱の喫茶店は半分も席が埋まっていないだろう、だから10数秒の差で自分と老人どちらが先に入店しようがそれは関係ない。臙脂色のソファーに腰を落ち着け、メニューを見て、好きに注文すればいいのだ。

鶴岡がシーフードスパゲッティーとツナサラダを注文し、シャンデリアに照らされた店内をぐるりと見渡すと、たしかに入店したはずの老人の姿は煙のように消えていた。