川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

天嶮親不知

18日、晴れ。鶴岡抄太郎は糸魚川にあらわれた。自宅からおよそ320km、新潟県の最西端に位置する。かつて彼は中越下越地方に頻繁に足を運ぶ一時期を持った男だが、実のところ上越地方を訪れたのは今回が初めてだった。以前より天嶮親不知に立ち、日本海を臨みたい気持ちを募らせていたのがついに実現した。職場で親不知観光ホテルの公式サイトを覗いたのも一度や二度ではない。

ただ、このたびは日帰りなので宿泊はせず。ホテルのレストラン脇から親不知コミュニティロードへとつづく勾配を上っていく。

f:id:guangtailang:20190519000258j:image時間は少し遡るが、駅でカーをレンタルして、最初に向かったのは親不知ピアパーク。北陸自動車道の高架下を利用した道の駅で、眼前に日本海が広がる。石ころだらけの海岸ではヒスイ探しもできる。海と空のあわいも判然としないこの日。

f:id:guangtailang:20190519000838j:plain大きな曲げ反り流木に引っ掛けられたアドヴェンチャーのキャップ。人知れぬアート作品だろうか。

f:id:guangtailang:20190519000931j:plainレンガトンネルの暗闇に目を凝らしながら小考した鶴岡抄太郎は、往路、コミュニティロードを歩き、復路でその下を通る旧北陸本線のレンガトンネルを抜けて戻ってこようと決めたのだが、その脇の階段をしばらく下ってみると、木立ちのあいだから澄み切ったブルーの海が覗けた。

f:id:guangtailang:20190519001037j:plainf:id:guangtailang:20190519001125j:plainf:id:guangtailang:20190519001203j:plain天嶮親不知。

f:id:guangtailang:20190519001253j:plainなんたるブルー。

f:id:guangtailang:20190519001335j:plainレンガトンネルは670mあり、灯りが微かに浮かんではいるが、まあ暗闇といって差し支えない。それで懐中電灯が用意されている。

f:id:guangtailang:20190519001750j:image外とは一変、半袖の躰を冷気が包み込む。天井から落ちる滴の、ぴちゃ、ぴちゃ、という音が反響し、寂寞感がいや増す。Hさんなら入りたがらなかったろうな。鬼(グイ)が出るとか云って。しかし、おれがグイズなのだ、「グイズライラッ!」と鶴岡は声に出してみた。それが自分の声でないように感じ、反響によって本物のグイがあらわれたら困ると思い、彼はなぜか「ごめんなさい」と謝った。トンネルの下部に出口まで390mと表示されている。

f:id:guangtailang:20190519001852j:plain市振といえば、もうその先は富山だ。糸魚川の中の最西端。だから、新潟まで196km、長岡まで135km、上越までも64kmある。新潟の先にまだ新発田や村上があることを思えば新潟の長さがわかる。

f:id:guangtailang:20190519002022j:image市振駅と一部利益は似ています。ともあれ、ユネスコの審査を受け、加盟を許されたのが世界ジオパークを名乗れる。糸魚川はこれ。一方、日本ジオパークネットワーク(JGN)に加盟しているのが日本ジオパークである。銚子などはこちら。日本の世界ジオパークは同時に日本ジオパークである。

f:id:guangtailang:20190519002047j:image海岸線を30kmほど走り、マリンドリーム能生2階の凪で海鮮丼を食らう。BGMに小椋佳がかかっている。糸魚川駅前は人気もなく、新幹線が停まる駅としては寂しい限りだが、この道の駅は駐車場もほぼ埋まり、賑わいをみせている。ベニズワイガニの直売所が軒を連ねた一角、パラソルの下で老若男女が桶から脚のはみ出たベニズワイガニをばきばきと折りながら、一心不乱にむしゃむしゃ食っている。ある妙齢の女性は甲羅の裏に脣をつけて身を啜っていた。なかなか豪快な眺めだ。鶴岡はカニがあまり得意ではないので、食堂に行ったのだ。

f:id:guangtailang:20190519002111j:image食後に1階のスタンドでコンブアイスを買う。ところが海をみながら食おうと外に出た瞬間、縁石に躓き、アイスの部分が前方に吹っ飛んだ。むなしいコーンを握り、路面でなお原形を留めている塊を見つめながら、鶴岡は「グイライラ(鬼来了)…」と呟き、しばらく立ち尽くした。「すみません、外で躓いてアイス落としちゃったんで、もう一度買います」と、左手にコーン、右手をアイスでねとねとにしながら、彼は10代とおぼしき女性服務員に云った。彼女は甘い笑顔で、「もう一度おつくりしますので、少々お待ち下さい」とアイスの残骸を受け取ると、手早く2個目のコンブアイスを盛ってくれた。鶴岡はテトラポットの先の海に目をやりながら、新潟の女で嫌な思いをしたことは一度もない、まごころがあるから。中越でも下越でも、そして上越でも、と思った。

f:id:guangtailang:20190519002126j:image高波の池。池があんまり写っていないが。奥にみえる明星山(1,188m)はロッククライミングで有名。

f:id:guangtailang:20190519002212j:imageフォッサマグナがあるから糸魚川は特別で、世界ジオパークにも認定されるんだ。日本の高峰30のうち、かなりの数がフォッサマグナの地帯にあるじゃない。売店ナウマン博士のTシャツを買おうか迷って、結局買わず。

f:id:guangtailang:20190519002422j:imagef:id:guangtailang:20190519002352j:image地元の建設会社、谷村建設の文化事業として運営されている谷村美術館・玉翠園・翡翠園。「美術館の全景をシルクロード砂漠の遺跡に見立て、館内は石窟調になっています。各展示室は、そこに展示されている仏像彫刻に合わせて設計されているのが大きな特徴であり、作品と建物が一体となって美術館自体も一つの芸術作品となっています」と説明書きにある。ちなみに館内は撮影禁止。

f:id:guangtailang:20190519002622j:plainf:id:guangtailang:20190519002708j:plain併設の玉翠園にてバタバタ茶を飲む。左側にフォッサマグナが走るテーブル。バタバタ茶をつくってくれた女性も親切で、傍らに立ち、手で指示しながら庭園の説明をしてくれた。

f:id:guangtailang:20190519002820j:imageヒスイを買わず、アルビタイトと濃厚ドレッシング、濃厚マヨネーズを買って帰宅。

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