川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

ほっぺの怪物

20日。治療している歯の周辺が腫れに腫れO歯科医院でもらった薬もなぜか少しも効かないので予約の日を待たずO歯科医院に駆け込んで再度診てもらったのだがその晩さらに腫れ熱を持ってズキズキと痛み口唇を開けるのも難儀眠る際枕に頬をつけるのも難儀これ以上悪化したらおれはほっぺの怪物になってしまうんだったらまだしも菌が変なところにまわってさらなる深刻な症状を引き起こすんじゃないかと戦々恐々していた。そのことばかりが脳裡を占めていたためSNSもロマンポルノも読書もウオーキングマスターベーションも何にも集中や実行を欠いたままベッドに仰臥しただ虚空を睨み唸っていた。それでもかろうじて出勤だけはし花粉症のマスクが頬の腫れをも隠してくれるのはありがたかった。他的脸肿了ですとHさんがおれと彼女におれの母親を加えたライングループにメッセージを送り母親からS歯科医院に行くべしと命令調のメッセージが届いたのは昨晩のことだ。歯科医院を変えるという選択はおれの脳裡にも過ぎりつつあったことなので即座に気持ちが動いた。このS歯科医院は今の場所に移転する以前もう5年前だが通っていたことがあり現在は事務所のごく近所に移ったこと院長の評判を聞き及んだことで両親が通っている。この院長仮にシヴィライゼーション先生としておくが彼は今も週に一度医科歯科大に赴いて後進の指導にあたりまた専門分野の学会発表もこなしている人物で耳の下まで伸びた長髪を手術帽ですっぽり覆いその上にマイクロスコープを装着している。朝一で電話を入れ午後3時の予約がとれた。シヴィライゼーション先生によれば予想通りO歯科医院の治療に問題があるようでレントゲン写真で指示しながら穿孔していないので膿は排出されないしもらった抗生物質も口内の菌に効果を発揮するものではないとのこと。無論シヴィライゼーション先生に他の医院を謗るような物云いはないが彼の明快至極な説明と信頼できる技術にやはりこの人に従いていくべきなのだとおれは再認識した。こちらではペニシリン系の抗生物質をもらい徐々に腫れは引いている。