川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

地瓜丸、または番薯丸

2日、夕刻。地下鉄上野駅から京成上野駅へと繫がる長い通路。どことなく黒ずんだ空間は昭和の通路の趣きを残している。といって京成上野駅は現在、平成最後のリニューアル工事をやっているのだが。歩くひとびとも寡黙に靴音を響かせるのみだ。

f:id:guangtailang:20190203131651j:image喫茶室白樺のある通りより京成電鉄新三河島駅を臨む。時間はちょうど午後5時だったが、白樺の扉には「準備中」の札がかかっていた。それで明けて今日、午前11時過ぎに常磐線三河島駅に降り立ち、そこから徒歩で新三河島駅へ向かった。地元といってよい場所ながら、このふたつの駅がそこそこ離れていることを初めて知った。イメージでは隣り合っていると思っていたが、そうではなかった。

白樺は開いていた。純喫茶好きのあいだでは、珍しい和風の店ということで注目されているようだが、正直、私にはあまりぴんとこなかった。昭和レトロは勿論よろしいのだが、北関東の温泉街の場末の喫茶店といった感じだ。「江戸川乱歩の美女シリーズ」の映像や、今はなき北千住のサンローゼが基準になっている私としては、やはり煉瓦やステンドグラス、シャンデリア、噴水、女神や騎士の像、螺旋階段、真鍮の把手といった洋風が好みなのだ。それらによって醸成されるある種のキッチュさこそが純喫茶だとも考えている。

f:id:guangtailang:20190203131704j:image帰宅後、空腹を感じてロルフのチーズをむしゃむしゃ食べてしまう。そういえば、上野の不忍池に沿って歩いている時、水上音楽堂の中から胴間声が聞こえてきて、バタンバタンと物体が床に叩きつけられる音も聞こえる。それで予想はついたが、前まで来るとプロレスの興行をやっているのだった。それから堂の裏側の方に歩いていくと、両親と娘ふたりのうち、母親と娘が外灯を支える基礎のコンクリートの上にのぼって、中国語でキャッキャッ云いながら中を覗いている。母親がいちばんはしゃいでいる。中国にプロレスがあるという話は聞かないし、たしかにあんな声や音が聞こえてきたら何をやっているのか興味が湧くだろう。そう思いながら通り過ぎ、実家に寄ったのだったが、あると思っていた目的のモノは見つからなかった。

f:id:guangtailang:20190203174341j:imagef:id:guangtailang:20190203174354j:image福建省福清市の伝統料理、地瓜丸または番薯丸。スープの油が照り映えている。Hさんが西川口から持って帰ってきてくれた。ちなみに、在日中国人の中でいちばん多いのは福建省出身者だとはよく聞く話だが、なかんずく福清人が多い。

f:id:guangtailang:20190203174439j:imagef:id:guangtailang:20190203175742j:image4日。今夜は彼女らの大晦日みたいなものだ。今日もママはおらず、件の男がママに電話をかける。それでスマホを寄越すので、電話口に出ると、「わたし、今、南千住タクシーね。何食べたいものある?」「オムライスが食べたいけど、ママがつくれるものでいいよ」。ほどなくしてママとその息子が両手にビニル袋を下げてあらわれ、「刺身も市場買ったからあるよ」と云うので、出張った腹を一瞥したのち、「じゃあ、刺身とご飯、それから玉子とトマトのスープ」と答える。が、途中でトマトを切らしていることがわかり、地瓜丸に変更する。2日連続だ。昨日は餡が豚肉だったのでスープが光線に照り映えたが、今日は魚団子なのでスープは静かに湯気を立てている。酢が入っているのも私の好み。

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