川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

西丹沢

渋滞する東名高速の1台に、西洋人の中年男女が乗った黄色いスポーツカーがあった。幌を開け放し、ふたりともサングラスをかけ、女は金髪をたなびかせ、さすがにサマになっているなと思ったが、こんなのろのろ運転で季節外れの強い日光を浴びつづけて大丈夫かしらんと、余計な心配もしながら横目でみていた。じりじりとタイヤは回転しつづけ、やっとこさ神奈川西部に差し掛かったあたり、後方からそのスポーツカーが来たのでみると、男は野球帽、女は麦わら帽子を被った上に、幌も閉じていた。

自宅からおよそ100km。目的地まで予定の倍の時間かかって到着。神奈川の低山を登りに行くけど一緒に来るかいと一応はHさんを誘ってみたが、案の定、「我不去」の返事。かつては八ヶ岳の高見石など一緒に登ったものだが、近頃彼女は「爬山」を好まない。翌日に疲労が残るというのだ。それは心地よい疲労だし、連休だからいいじゃないかとは口に出さず、いちにんで僕はここ丹沢まで来た。

途中、やたらと山北つぶらの公園の案内板が目につき、大野山からも近いようなので、とりあえず先にそちらを廻ることにして、ナビを入れる。狭い林道を上り切ると視界が展け、整備された公園があらわれた。数十台分の駐車場も確保されている。

f:id:guangtailang:20181007204140j:plain左にみえるのが大野山。陽射しは強いが、気持ちのよい風が吹いている。

f:id:guangtailang:20181007204151j:image公園の大部分を森林地帯が占めている。右上の森林の中に幸運の滝(グッドラックフォール)があるので、そちらに向かう。容易に行けるのかと思いきや、思ったよりもハードな行程だった。一応は人の手が入っており、階段や獣除けのフェンスもあるにはあるのだが、鬱蒼として地面の落ち葉や枝や石が濡れ、ビブラムの靴底でなけりゃかなり滑るだろう。途中、滝上と滝下に道が分かれるが、滝下を選択する。

f:id:guangtailang:20181007210343j:imagef:id:guangtailang:20181007210042j:plain鎖場も少しある。

f:id:guangtailang:20181007204251j:image何段かになっているいちばん下の滝。こじんまりとしているが、ビブラムで防水の靴じゃないとここまで近づけない。

帰りの斜面で息切れして立ち止まってしまい、丸太に躰をもたせかけながら己の不甲斐なさに腹の肉をぎゅっとつかむ。5年前はこれしきの坂なら一息で上れたのに。壮年の衰えを痛感する。

f:id:guangtailang:20181007205925j:plainつぶらの公園展望台より。富士山の手前に雲が湧いており、いまいち。

f:id:guangtailang:20181007210412j:imageこの景色は個人的にかなりすぅき。

さて、大野山に向かう。つぶらの公園から下る林道の途中で、登山の恰好をした中高年が歩く方へついていくと、ほどなくして「大野山 50分」の案内板を見つける。附近にちょうど2台か3台分の駐車スペースが空いていたのでそこに駐め、小屋の脇の道をどんどん上っていく。時刻が午後のため、下山する人たちとすれ違う。つぶらの公園からもみえたが、登るにつれてススキの繁茂する地帯に入り込み、それらを掻き分けながら進むかたちとなる。もう、誰ともすれ違わない。秋の漂いの中で、ただ、己の息遣いとビブラムが地面を踏む音だけ聞こえる。大袈裟に言えば、俗世から遊離した静謐さだ。しかし、ここでも立ち止まり、小休止が必要だった。息が上がり、口内がねばねばして、僕はしゃがみ込んでしまいそうな脚を、腿を拳で殴って叱咤した。太り肉の躰が思った以上に言うことを聞かない。壮年の衰えをまたぞろ痛感させられた。息を整え再び歩き始めると、すぐに「休憩所 15分」と書かれた木片がみえた。

f:id:guangtailang:20181007210946j:plainf:id:guangtailang:20181007210729j:imagef:id:guangtailang:20181007210747j:image小田原の街の向こうに相模湾伊豆大島の島影もみえる。尾崎一雄川崎長太郎の街はいいところにあるね。隣りのベンチに座っている登山の恰好をした30代後半にみえる男女が中国語で話し始めた。男が腰を上げ、高価そうなカメラでしきりに山頂一帯の写真を撮っている。それに女が流暢な日本語で「なんか武器を持ってるみたいね」と言って、笑っている。マイナーな山に来ているし、日本暮らしが長いのだろう。

f:id:guangtailang:20181007211204j:plainf:id:guangtailang:20181007211256j:plain反対側は丹沢湖。山肌の陰翳が美しい。

f:id:guangtailang:20181007210758j:image湯触経由用沢。なんちゅう地名やねん。と思ったら、経由するから前後にふたつの地名か。帰り、予想はしていたが、ひどい渋滞に巻き込まれる。

f:id:guangtailang:20181007212936p:image

歩数はそれほどでもないが、上った階数は140階。タワーマンションどころではない。

無料の公園と山で、かかったのは高速料金とガソリン代のみ。