川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

「辺境からの手紙」

f:id:guangtailang:20181005231040j:imageドゥニ・ヴィルヌーヴ『灼熱の魂』(2010)を東京芸術センターのブルースタジオで。金曜日の午後7時。観客は私を含めて3人。この館に来るのは、アピチャートポン・ウィーラセータクン『ブンミおじさんの森』(2010)以来だが、あの時も観客は3人だった。1,000円。

ヴィルヌーヴ監督の映画は他に『プリズナーズ』(2013)を観ているが、『灼熱の魂』はそれより前に撮られているのだな。実に見応えのある映画だった。

【以下、ややネタバレ】

この映画のキモである1+1=2じゃないという衝撃の事実が判明するまでを、母と子らの時代のパートを精緻に組み合わせながら、少しの弛みもなく最後まで物語っていく。音楽も良い。冒頭の場面で印象的な少年のまなざしも、ああ、そういうことだったのねと深く納得する。『プリズナーズ』の時も思ったが、その水際立ったストーリーテリングの才がヴィルヌーヴ監督なのだろう。

母ナワルの時代はレバノン内戦が下敷きになっているらしいが、別段、中東の歴史・文化・習俗に精通していなくても、映像を観ていれば物語をちゃんと理解できるのも、この映画の優れているところだ。

ただ、ケチをつけるわけではないが、深刻な題材であっても、個人的にはもう少しユーモアがあっていいように思う。弛緩があるからより緊張が高まるみたいなこともあるし。大学の数学教授がジャンヌに某を頼りなさいと言って、彼女がその人物を訪ねると、協力できないと言われ、浮世離れした数学の定理を述べているところはちょっとおかしみがあったが。 

f:id:guangtailang:20181005231047j:image実家の柴犬がまたやったと、母親からラインに送られてきた画像を加工。狗にこの行動を起こさせる心理に名前を与えると、人間の幼児にもある「分離不安障害」ということらしいのだが… このマッサージチェアの寿命は短かった。