川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

汐入

f:id:guangtailang:20180510144819j:image午前中、暗い空から雨が落ち始め、連休明けからつづくなあと思ううち雷鳴が轟いた。気圧の谷間か。雨は昼過ぎに止み、それを見計らって自転車で出発した。

隅田川沿いのニュータウン道路をゆく。この一帯、私が中学生くらいの頃(だから80年代後半)から大規模な再開発に取り掛かり、長い時間をかけて「新しい街」を整備した。それまで「汐入(しおいり)」と侮蔑的なニュアンスを込めて呼ばれ、湾曲する川を剃刀堤防で仕切り、広大な隅田川貨物の敷地とのあいだにある、バラック長屋が建ち並び、舗装されない路地や雑草の繁茂する空き地だらけだった土地を区画整理し、そこに大規模なマンション群が建設され、川沿いはスーパー堤防を兼ねた公園とし、電線は地中に埋められ、商業施設が増えていった。左側のコンテナが見える部分は隅田川貨物。

f:id:guangtailang:20180510144829j:image区役所に着く頃も空はまだどんよりしていた。私が定住したことがあるのはこの台東区、文京区、足立区、荒川区で、23区の北東部である(厳密には大学時代、相模原の橋本に1年弱住んでいた)。

f:id:guangtailang:20180510144841j:image帰りのニュータウン道路は晴れ間がのぞき、明るかった。「新しい街」に住んで3年になるが、すぐそばに子供の頃から変わらない川があるから、街にも親密さを感じられる。Hさんは川沿いの公園がお気に入りだ。かつて汐入は陸の孤島と呼ばれたが、今では橋も架かって、交通も便利になっている。

私は新しい街(町)に行った時、まず高いところに上るか、地図を見て川に向かって歩き出す。

f:id:guangtailang:20180510161928j:image「心境小説」というのは私小説(わたくししょうせつ)の中にあるのか区別されるのかよくわからないが、志賀直哉「城の崎にて」とこの尾崎「虫のいろいろ」がよく挙がっている。14の短篇が所収されているうち半分くらいまで読んだが、このおっさん、おもしろいなあと思い、著者の郷里で後半生の活動の拠点だった小田原に近々行ってみたくなった。小田原は初めてではない。以前、やはりこの地で執筆活動をしていた川崎長太郎の足跡を辿るべく、大学時代の友人と歩き廻ったことがある。だるま食堂でチラシも食べた。川崎で有名なのは、海辺の掘立小屋に住んで蠟燭の灯りでものを書いていたというエピソードだ。小田原には酒匂川というのがある。人口およそ19万1千人。

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講談社文芸文庫だから定価も高いが、それでも古本についている値段が高い。私は1,400円で買った。