川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

神戸

f:id:guangtailang:20171128134628j:plainf:id:guangtailang:20171128134742j:plain2012年5月4日、神戸ポートピアホテルより三宮・六甲方面を望む。

神戸には今でも母方の祖母が住んでいる。幼少の頃より長い休みのたんびに新幹線で会いに行ったものだ。当時の運転車輛は団子鼻のやつである。祖母もおんとし90歳。ついにひとり暮らしは無理となり、施設に入った。

大昔、新幹線の食堂車で阪神タイガースの選手に会ったことがある。たしか4人くらいいたはずだが、特段プロ野球に関心の無い私が知っている顔は真弓明信選手と岡田彰布選手のふたりだった。前者のアキノブが手をとめて喋りまくって、後者のアキノブが黙々と飯を食っていた好対照のさまをよく憶えている。真弓選手はまだ若く、子供心にハンサム(イケメンという言葉は当時まだ無い)だと思った。

1995年1月17日午前5時46分に起こった大地震とその後の火災で母親の育った長田の街区は灰燼に帰した。祖母はその場にいたわけだが、幸いなことに怪我はなかった。そして、少女時代に戦争という非常事態を経験している彼女の精神は強靱だった。大地震の数日後にどうにかこうにか神戸入りした両親の眼には、「街が爆撃を受けた」ように見えたらしいが、祖母は避難先のグラウンドでなんとかなるという楽観の態度を貫いていたらしい。よその少女に励ましの言葉もかけたという。こういう人はやはり尊敬すべきなんじゃないかと、あらためて思った。

去年の暮れ、『ハッピーアワー』(2015)という映画を大学時代の友人Kに薦められた。神戸を舞台にした5時間17分の長大な劇である。上映されている館がごく限られていてなかなか観られなかったのだが、Kの「最初はこんな下手な演技に5時間付き合わされるのかよと思うけど、観終わったらほんとうに観て良かったと思うから」との言葉に促されて、仕事を早退けして観に行った。

実際、観て良かったと思う。プロの俳優でない4人の30代女性が主役で、それぞれの感情の軋みが関西弁(神戸弁)の言葉で肉迫し、時に痛々しいほどなのだが、この人たちは現に今、神戸の街で生活しているような気がしてきて、画面に瞳が釘付けになった。 観た人たちの大半が5時間は長くなかったと言うのも頷ける。