川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

変哲もない話。

f:id:guangtailang:20171108091226j:plainいよいよ晩秋といった趣きで、日中ぽかぽか陽気の日でも、朝晩は冷え込む。街路を行き交う人々の中にも外套を纏う人がちらほら出てきた。

私は寒さにはわりかし強い方で、まだ外套の類は着ていない。あとしばらくはこのままブレザーでいけそうだ。友人にもひとり寒さに強い男がいて、彼は12月下旬でもスーツの上下のみで対応している時がある。

その頃、彼と私は足立区の千住近辺に住んでいて、ある冬の夕刻、千住大橋駅のプラットフォームで待ち合わせたことがあった。今はどうか知らないが、あそこは気の利いた待合室もなくて、私は寒風吹きすさぶなかプラットフォームに仁王立ちして彼を待った。5分も立っていると足元からぞわぞわと寒気が上ってくる。頬も悴んで口唇が動かしづらくなってきた。私はブレザーのラペルを裏返して掻き合わせ、風を避けた。

宵闇を背景に電車が到着し、10mくらい先のドアーから彼が降りてきた。スーツの上下にノーネクタイで、にやにやしながら近づいてくる。シャツの胸元から冷風が侵入するのを気持ちよさそうに、「電車ん中、暑いわ。コートなんてまだ要らんやろ」と関西弁で言った。決して瘦せ我慢しているわけではなく、彼はそう感じているのだった。

また、2月のある日中、私は仕事で客と同業者を待っていた。建物の内部に入ってしまうと見つけにくいだろうと思い、エントランスの脇に立っていた。東京といえども1桁の気温で、晴れてはいたが、外套に手袋をしたままでないと手が悴んだ。

折り畳み式の自転車に乗って、先に同業者の若い男が現れた。スーツの上下で外套は着ていない。色白の手に手袋はつけていない。誰もが知るように真冬の自転車で手指の露出は堪える。客が来るまでのあいだ彼と雑談し、そのうちに彼の薄着にも触れた。「寒くないですか?」「いや、これくらいが気持ちいいなと思って。ぼく、青森の十和田出身なんですよ」「ああ。じゃ、寒さに強いんだ」「ぼくは特に強いみたいで、地元にも寒さに弱い人はいるんですけど」。

北海道などでよく聞く話として、屋外は極寒だが、室内は暖房が完備されTシャツ1枚でアイスを噛っている。ゆえに、東京の室内の寒さには驚く。以前一緒に暮らしていたXさんはハルピン出身だったが、脱衣所のスペースに暖房が無かったので寒くてしょうがないとぼやいていた。ハルピンはじめ中国東北部の家には暖気(ヌアンチィ)という暖房設備(温水パイプ)が室内の至る所張り巡らされている。また、新潟の女性は「東京の寒さはなんか刺してくるみたいで」と独りごちた。愛情砂漠を歩いてきたの。 私は暖房が効き過ぎた空間に長時間いると、意識が朦朧としてきて、あげく乾燥のため鼻血を出してしまう。今がそれだ。