川の照り

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

一瞬の夢

f:id:guangtailang:20170913172523j:plain『一瞬の夢(原題・小武)』(1997)。ジャ・ジャンクー監督長編デビュー作。自らの出身地山西省汾陽で撮っている。物語自体は他愛ないと言っていいものだが、映画としてはいきなりの傑作である。

原題にもなっている主人公シャオウー(小武)の、冴えない風体にぶっきらぼうなさまは、中国の地方都市の若者をリアルに体現している。画面に映るのは中国内陸部の埃っぽく殺伐とした風景で、いかにも若者らのエネルギーを抑圧している、袋小路の感じを受ける。

私がジャ・ジャンク―監督の映画を初めて観た時、それは『青の稲妻(原題・任逍遥)』(2002)だったが、70年代のある種の日本映画に似ていると感じた。たとえば藤田敏八の青春映画。やり場のないエネルギーを持て余し鬱屈した日々を送る若者が、その閉塞感を食い破ろうとついには暴発的な行動を起こし、ことによったら破滅してしまう。端的に言えば、そういう青春を描いた映画である。『青の稲妻』の乾いたタッチが、その手の70年代日本映画を思い出させた。現代中国の時代状況に、そういう若者を生み出す土壌があるのかも知れない。

過日、新文芸坐藤田敏八回顧上映に通っていた際、『帰らざる日々』にまつわる当時の記事が貼ってあり、監督がだいたい次のようにコメントしていた。鎌倉や横須賀を舞台に青春映画を撮っていたのだが、「夏の栄光」(映画の原作)を読んで、山をいくつか越えた先の小さな町(飯田市)にもさして変わらない若者の青春があるのだと興味を惹かれた。

もし藤田老人が存命していて、『一瞬の夢』や『青の稲妻』を観たならば、おれが昔撮っていたような映画が、90年代末の中国の地方都市で撮られているんだなあと思ったかも知れない。