川、照り映え

隅田川沿いに住む壮年が綴る身辺雑記

僻地にて

f:id:guangtailang:20170828110438j:plainいつ頃撮られた写真だか知らない。広島の内陸部で、島根が近いくらいの場所だ。今の行政区分だと三次市になる。父方の祖父の実家である。裏に山を背負っている。祖父はここから東京に出てきた。

数年前、急に興味が湧いて行ってきた。それまで三次に行ったことはなかった。駅からタクシーでも結構かかる予想以上の僻地であった。冬に行ったが、路面が凍結していた。地元出身だという運転手のおっさんに高校駅伝世羅高校)とワニ料理(サメ肉)の話をしてもらった。

家は建て直されていたが、裏山と角地の木造二階建の雰囲気はさほど変わっておらず、車窓からでもすぐにわかった。玄関に至る坂のアプローチが石の階段に変わっていた。

いくら血縁関係があるとはいえ、「東京から来ました」といきなりわけのわからない訪問者が現れても不審がられると思ったので、遠目に表札だけ確認した。父親からも聞いたことのない名前だった。ふと横に目をやると、写真と同じ位置に現代の洗濯物が干してあった。子供のものもあるようだ。

待たせてあったタクシーのおっさんが階段を上がってきて、おもむろにインターホンを押した。おいおい、と思った。しかし、中から反応はなった。もう一度おっさんが押してしばらくふたりで立っていたが、留守のようなのでタクシーに戻った。車内は温かかった。おっさんが土地の言葉で、残念だったねえ、今度は連絡してから来たらいい、というようなことを言った。

広島市に戻って1日ぶらぶらして、東京に帰ってきた。父親に表札の名前を言ったら、少し考えて、「ああ、〇〇か」と知っていた。