山口百恵(シャンコウバイホィ)といえばある年代以上の中国人はだいたい知っている。彼女が主演した『赤い疑惑』(1975)が1984年に日本のドラマのさきがけとして中国大陸で放映されたから。『血疑』と題され、これが一大ブームを巻き起こした。
当時少女だったHさんも画面にかじりつくように観ていたという。とはいえ自宅にテレビは無く、近所のわりかし富裕な家に上がり込み、大勢の大人のあいだに身を滑り込ませて観た。私は写真や映像でしか知らないが、日本の高度成長期にもよくみられた光景だろう。
『血疑』で共演した三浦友和も宇津井健も中国でよく知られている。が、Hさんは女なのでやはり山口百恵が気になるらしい。彼女は21歳で芸能界を引退した、三浦友和と結婚して、今も三浦の妻で、ふたりの息子を持つ母親だ、ということをHさんは知っている。それらにつけ加えるように、「今、肥りましたね」と笑う。
藤田敏八『天使を誘惑』(1979)。山口百恵と三浦友和のコンビ11作目。正直、私は世代ではないので、ふたり(ゴールデンコンビ)の映画・ドラマはいくらも観ていない。藤田監督だから観たということもある。
ふたりは当時のありふれた若い男女を演じている。とはいえ現在の若者より幾分アナーキーの気味がある。冒頭、太平洋沿岸、茨城県日立地方の空撮で始まる。実家に帰ってしまった佐野恵子(山口)を上杉(三浦)がクルマで迎えに行く。木造だった大甕駅も出てくる。実家で恵子の兄(蟹江敬三)やお見合い相手(岸部一徳)と口論になったり、酒を飲んで一泊することになったり、なんやかやあって翌朝、結局ふたりして東京に戻ってくる。
その後、藤田監督らしく、当時の若者のライフスタイルを描きながらたいしたドラマも起こらないのだが、私が出色だと思うのは上杉の親友・松田(火野正平)の結婚式ぶち壊し場面である。ここで関係者が一堂に会する。恵子との仲を疑われた会社の元上司・岩渕(津川雅彦)が恵子にちょっかいを出し、上杉が怒る。岩渕は応戦し、そこからは大乱闘。テーブルはひっくり返り、料理や椅子は飛び、式場がめちゃくちゃになる。新郎松田が、これはショーです、これにて終了とさせて頂きます、とマイクで叫んだところで事態は収拾しない。
上掲写真のふたりが寄り添う場面は、乱闘の後、松田とともに朝まで飲み明かし、式場ホテルの前で恵子から賠償の金額を聞かされた上杉が雄叫びをあげ、恵子を引き寄せたところである。
火野と津川がいい味を出している。ふたりとも当時は髪がふさふさだ。
【追記 2018.10.18】辣椒『マンガで読む 嘘つき中国共産党』56頁